読書感想文「第五の山(パウロ・コエーリョ)」

東日本大震災やシリアの内戦など、日本各地・世界各地で起きている災害や戦争を見聞きすると、誰しもこう思ってしまうだろう。「神が本当にいるのなら、どうしてこのようなことが起こるのだろう」と。ましてその災害などで命を落としたのが、信仰心篤い人や誰にでも親切な人、子どもなど、「なぜこの人の命が奪われねばならないのか」
 
と思わざるを得ないような人であれば、なおさらだ。神なんて、いないのではないかと思ってしまう。この本はその疑問に、旧約聖書に登場する預言者の一人であるエリヤの半生を通して答えている。エリヤは、これでもかというほどの不幸に見舞われた。彼のせいで目の前で人の命が奪われ、彼自身は故郷から離れざるをえなくなる。
 
ようやく安住の地と愛する人を見つけたのに、戦争によりその地は彼女と共に破壊される。絶望の果てにエリヤが出した答えは、神に挑戦するというものだった。神の意志で町は破壊されたが、その町の再建に力を注いだのだ。町の再建に伴い、エリヤだけではなく、愛する人の遺児や町の人々の心が再生していく過程が見事である。
 

 
 
絶望し、うずくまっていても、何も変わらない。苦しくても、つらくても、自分が出来ることを一つ一つやっていくしかない。そうすれば、自分の心が癒されるだけではなく、人をも変え、社会を立て直すことすらできるということなのだろう。そしてエリヤは、気づくのだ。実は神に挑戦することは神に背くことではなく、むしろ神自身がそれを望むこともあるということに。
 
かといってこの本を、現在絶望のただなかにある人に勧められるかというと、それは疑問だ。この夏も西日本の豪雨災害や北海道の地震があった。インドネシアでも大きな地震があり、救援の手が届いていない人々も多くいる。それらの災害の被災者に、絶望せず、一歩一歩がんばれなどと、言えるはずもない。
 
むしろこの本は、何はともあれ平和の中にいる私たちが読み、不幸に見舞われた時に、そのメッセージを思い出すべき本なのだ。決して読みやすい本ではないし、読了して心が明るくなるとは言えないが、一読の価値はあるだろう。
 
(40代女性)
 
 
 

第五の山 (角川文庫)
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