「政と源」の読書感想文
下町に住む73歳の幼馴染のおじいさん達の日常を描いた作品だ。ちょっとしたトラブルや喧嘩などもあるが基本は日常、普通の暮らしぶりを書いている。なのに、なぜか生きる事について考えさせられたりホロリと泣けてしまうのだ。一流会社を出ても、妻や娘にそっぽ向かれてしまっては寂しい老後となってしまう。
人間は、いくつになっても誰かとつながっていなくては生きていけない、生きていく意味がないのだと思った。幸いにも、主人公の一人である政は幼馴染の源のおかげで若い弟子のトラブルなどに振り回されて大忙しである。ブウブウ文句を言いつつも、頼りにされれば嬉しいしほっておかれれば寂しいのである。源は幼いころに家族全員を戦争で失い、天涯孤独である。
恋女房にも先立たれ、本当は誰よりも愛に飢えているのだ。堅実な政と破天荒な源、正反対の二人が繰り出す会話がなんとも面白い。私が特に心打たれたのは、政がぎっくり腰になってしまうところだ。一人暮らしの政は、このまま死ぬのかとまで思う。経験がないのでわからないが、そこまで思うほどぎっくり腰とは動くことが出来ないようだ。そんな政宅に「おーい、政」と源がやって来る。
それを本の中では「幼なじみ無線」と書いている。何ともユーモアがあり、絆のつながりを感じずにはいられないエピソードか!70年以上も一緒にいた幼馴染ならではだ。終戦の際には疎開した政が東京に戻り、焼け野原にいた源と抱き合いながら再会を喜ぶのだ。そんじょそこらの友情ではない。正反対の性格ゆえ、ぶつかることも多く歯がゆい所もあるが、極上の友情物語である。
また、熟年別居してしまった妻との関係も興味深い。特に原因もなく、ある日「娘の家に行く」と出て行ってしまった妻に戻ってきてほしいと言えない政のプライド。そんな妻に「幸せを願う相手が君で自分は幸せだ」と政が書いた葉書にホロリとした。下町の日常のドタバタ劇かと思い読み始めたが、今は私も誰かとつながり絆を持ちたいと思うようになった。
(40代女性)
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