読書感想文「放課後スプリング・トレイン(吉野泉)」

福岡県福岡市を舞台とした、最近のミステリのジャンルの一つになりつつある「人の死なないミステリ」作品である。女子高生の主人公(ワトソン的配役)と癖のある大学生(ホームズ的役割)の出会い。交流していく過程で起こる些細だが誰もが一度は思ったかもしれない日常の不思議を大学生が解き明かしていくのを間近でみることにより、女子高生に淡い恋心が目覚めていく。

 

福岡市が舞台であるとは前述したが描写はかなり細かく、天神地下街の喫茶店や福岡の地元民なら当然話すホークスのネタ話など、住んでたことのある人、福岡出身の友人がいる人ならクスリとしてしまう。謎として大きく命題されるのは目次になってる4つ・電車の中でのおばあさんの謎の行動・学園祭での事件・ボランティア部部長の謎の行動・育てる植物を改変した小学生の話であり、こちらについては回答が示される。

 

 

 

しかし、「答えの明示されない謎」もいくつか出てきており、登場人物たちがそれぞれ自分の意見を述べている。若い人たちのこれからの人生において、出てくる多くの謎や壁に、立ち向かうべき方法や答えは人それぞれで、絶対的な答えや攻略法などないという著者の想いだろうか。物語は女子高生の一人称であり、探偵役の大学生の不思議な行動、普段とのギャップ、年齢以上の精神の成熟度の差に驚き、戸惑い、後ずさる様子は読んでいて躍動感がある。

 

それだけで終わってしまうことなく、最後に、本当に「少しだけ」どんでん返しを用意しているのも、著者の遊び心を感じる。この先、この男女はどういった交流を重ねていくのだろうか。女子高生は同じ大学へ進学するかもしれない。彼女の行動力ならあるかもしれない。最後のシーンで二人の距離は近づいたのだろう。ひと昔前の恋愛小説なら女性の想いを男性が受け入れるといった形だろうが、この作品では女性による精神的な奇襲によって大学生の心を突破する。

 

いつの時代も恋の主役は女性だ。謎を解き明かす役目くらいは今後も男性にも残してほしいものである。

 

(30代男性)

 

 

 

 

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