「光」の読書感想文
三浦しをんの作品は、小説もエッセイも複数読んだことがあった。そして『光』を読み、予想外の雰囲気に驚いてしまった。なぜなら、三浦しをんの小説とは思えないほど、暗く思い内容だったからだ。他の小説は、どちらかと言うと軽快で、笑いを誘うような会話も多く、また物語が明るく希望に満ちているので、元気づけられることが度々あった。
ところが今作は、初めから終わりまで一貫して重苦しく、人間の感情の暗い部分をえぐるように描き出しているのだ。内容を全く知らずに読んだので、正直なところ驚いてしまった。しかし、それで期待はずれだったかと言うと、全くそうではない。むしろジャンルにとらわれない作者の力量を見せつけられた気がした。
もうひとつ驚いた点は、この作品が津波を大きな軸に据えながら、実際には東日本大震災の5年も前に発表されていることだ。偶然ではあるが、震災後に読んだ私にとっては、より現実味をもって迫ってくるものとなった。そして震災前に書かれたにもかかわらず、津波の描写は非常にリアルで、その後の人々の様子も想像で描かれたとは思えない。
読んでいる間、いつ明るい展開になるのだろうと淡い期待を捨てなかった。それは三浦しをんの他の作品を読んでいたせいもあるが、「光」というタイトルと、白いハードカバーから、なんとなく希望ある物語を予想していたのだ。しかし読了後、「光」という言葉に対するイメージが変わった。既成の概念に雌を入れるような言葉のセンスも、作者の素晴らしいところだろう。
また、これは三浦しをんの作品全般に言えることだが、日本語がとても美しい。そのおかげで、物語は人間や人生の醜さを描いているのに、なぜか不快になることなく、すんなり読めてしまった。絶望的な気分にさせられながらも、小説というものの力については、非常に前向きに考えさせられたと言える。
単に娯楽で終わらない小説に久しぶりに出会った気がして、読んだ後は心にずっしりとしたものを感じながらも、嬉しかった。これからもこういう小説に出逢いたいと思う。
(20代女性)
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