「食堂のおばちゃん」の読書感想文
この小説は『恋するハンバーグ 佃 はじめ食堂帝都ホテル』で登場する一子が、夫の孝蔵亡き後のはじめ食堂の経営者として再び登場する話である。第一話から第五話の短編で、各章に料理の名前が付いているのが食堂のお品書きのようで面白い。
第一話「三丁目のカレー」第二話「おかあさんの白和え」など、各章のタイトルになっている料理や登場人物と関わりのある人達とのエピソードが日常生活の中で描かれていて、日本版のクールブイヨンのようである。ここの常連客は昔なじみの人が多いが、一子と嫁の二三が分け隔てなく十人十色の人生を受け入れた上で接しているので、様々な立場の人が集まりやすい。
人間は生きている間に多かれ少なかれ問題を抱えるものだが、その人が困難を乗り切れるかどうか判断する目安は、食事が美味しい事である。部屋で一人きりでカップラーメンをかきこむより、誰かが自分のために用意した出来立ての料理を食べるのは雲泥の差がある。その時好きな物をすぐに食べられる程贅沢を感じるものはない。
美味しい物を食べると心が和むが、一緒にいる人同士の関係を良くする効果がある。料理から立ち上る湯気のように心温まる話ばかりだが、どの章の話から読んでも期待を外すものがない。昔洋食屋だった店を普通の家庭料理を中心にした食堂にしたところが心憎い。
食の欧米化が進んでいるとは言え、やはり日本人が原点回帰出来る食事と言えば和食であろう。この店の暖簾をくぐれば故郷の家に帰ったかのように安心する。店主の一子や嫁の二三がお客一人一人の顔や好みの料理を覚えていて、体を気遣いつつ提供してくれるのが常連にとっては魅力だろう。
お客が必要な食事を提供するためには料理上手である事は言うまでもないが、会話している時に洞察する力があるかどうかにかかっている。お客が何も言わなくても、その時美味しく味わえる食事を出す事が出来る。それを何のてらいもなく出来るのは天性の才能と愛情に満ちた人柄の両方がなせる業である。
(40代女性)
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