久方ぶりの篠田節子。やっぱり面白い。とある地方の町、サラダ野菜を作る農場、それを加工する工場から話は始まる。深夜、立ちっ放しのサラダ用のカット野菜工場で働くのは、シングルマザー、外国人研修生たちである。
外国人研修生とは言っても、実態は日本人がやりたがらない過酷な3K仕事を超低賃金でやらされる契約労働者だ。技術の習得というのは名目だけ、小説ではリアルな実態が描かれている。外国人研修生のことは、まだまだ知られていないので、よくぞ書いてくれたと思った。
ルポルタージュのようなものはいくつか書かれているが、小説はあまりないように思う。しかしこの小説の本題はこれではない。お洒落な最先端オーガニックカフェに卸されているサラダ。その野菜はどのように作られ、加工されているのか。工場で栽培される野菜は、農薬は使わなくとも、殺菌はされている。
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太陽と土からの栄養がない分、その味気無さは人工の調味液で誤魔化されている。それが付加価値となり、コンビニの総菜よりもずっと高い値段で、意識高い系の人たちに食べられている。小説はこのあたりから、俄然面白くなる。次々体調不良を訴える工場労働者たち、近隣住民たち。
思いもよらないことが重なり合って、本来毒でないものが猛毒なる。有吉佐和子の「複合汚染」を思い出した。さらに、サラダ野菜農場は最先端のハイテク農場へと進化し、不気味な暗闇の中、完全な密室で栽培される。そこで作られる野菜は、もはや工業製品だと思った。私なら口にしたくない。そんな野菜が普通に出回るようになると、どうなるのか想像できる。
健康のために食べる野菜が逆に病気を生み、生態系を壊していくだろう。ここに書いてあることすべてが、現実にあるものではないのは確かだ。しかし現にカット野菜は売られているし、水耕栽培野菜もよくある。これを読んでカット野菜が食べられなくなったという人もいるかもしれない。
私は、カット野菜は使わないが、水耕栽培のものを買うことはある。読んだ後、殺菌剤のことなどが、より気になるようになった。社会派サスペンスを得意とする篠田節子の面目躍如といったところか。綿密に取材しているのがよく分かる。
(50代女性)
朝日新聞出版 (2016-09-07)
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