読書感想文「コンタクト・ゾーン(篠田節子)」

上下巻にわたる長編を、一気に読み終えた。文庫本で読んだのだが、まずこの本に惹かれた理由は表紙である。本屋でちらっと見かけてすぐに、「見たことがある!」と釘付けになった。なぜなら、現在私が日本としょっちゅう往復している、インドネシアバリ島の絵だったのだ。手にとって見ると、しかも著者は大好きな篠田節子氏。彼女の本は、手に入るものは皆手当たり次第に読んできた。これは面白いに違いない、とすぐに2冊とも買い込んだ。舞台は南半球にある仮想の国、そのまたリゾート化された島。地名も文化もすべて創造なのだが、どれを取っても実際のバリ島の様子によく似ている。バリ島がモデルになっていることは間違いないのではないか、と自分自身の経験に照らし合わせながら読み進んだ。外国人に好まれるリゾート地としてのイメージ作りが先行し、地元民の暮らしとリゾート開発地の様子が大きくかけ離れているところも、よく似ている。安くブランド品を買おうとやってくる日本のOL女性たち、その日本女性たちを現地の男漁りが目的と決めてかかって冷めて目で見る日本人男性ガイド、あわよくば親しくなろうと日本女性に声をかける現地の若いホテルスタッフ。しかし、この小説を読み込んでいくと、その日本女性たちが、一見そう思われがちなほどに何も考えていない軽い馬鹿な人間ではなく、それぞれに人生の痛みを持って日々もがいていることが見えてくる。そのうちに島で内乱が発生し、外国人の虐殺を逃れて彼女たちは生き延びていくのだが、そのやり方はけしてスマートでも格好良くもなく、泥臭く現実的である。危険に直面する直前までは現地の人間に溶け込んで現地の人間側にいる自分に酔っていた日本人男性ガイドが、最後のところで本音が出たり、「ああ、こんな人って確かにいるよな・・・」と海外で会う日本人をよく捉えているなと思う。リゾート化されそのイメージを一面に出したリゾート地も、そこに住む現地人の生活があり、彼らはけして常に微笑をたたえた旅の小道具の一部ではなく彼らの長い歴史と生活を背負っており、どんなところにも苦しみや戦いもあるのだ、ということを改めて思い出させてくれる。そして、ぐるぐると悩みながらも強く生きている女性たちの姿はたくましい。補足しておけば、現在のバリ島は以前とは随分と事情も変わってきている。ジャパンマネーをもってしても、以前ほどの外国人と現地人との経済格差はなくなってきている。以前はよく見かけた、日本にいる時よりも居丈高にふるまう高慢な態度ではなく、現地の人々と横に並んで彼らの文化を味わうような、そんな旅行先になってきたなと感じる。そう考えると、小説の中の女性たちの生きる姿勢は今も瑞々しく活き活きとしているが、時代背景としては一時代前の話になってきているのかもしれない。

 

(40代女性)

 

 

 

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