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読書感想文「死神(篠田節子)」

「死神」の読書感想文

篠田節子氏の作品は大好きで、手に入るものは手当たり次第にほとんど読んでいるのだが、長編が多い著者の作品の中で細切れに何度も楽しめる読み応えのある短編集がこの「死神」だ。収録されている8編は、すべてある市役所の福祉課が舞台となっている。

福祉課と聞いただけで、その後ろに無限に広がる人間模様や生活が想像でき、読む前から期待して興奮を抑えられなかったのだが、1話1話の中にある人間模様や人生はそれだけでひとつの完成した物語になっており、最初から最後までいっきに読んでしまった。

中でも心に残ったのは、「ファンタジア」。栄養失調で倒れて保護された女性は、実は福祉課の職員、富樫由梨江が学生時代に夢中になって読んでいたファンタジー小説の作者だった。かつては売れっ子作家としてもてはやされていたその作家は、ファンタジーブームの衰退とともに世の中から忘れられ、それでもまだ売れない小説を書き続けていた。

仕事しても、仕事しても、お金にならないと言いながら売れない小説を書き続ける彼女に、由梨江は言い放つ。「収入にならない仕事は、プロの仕事とは言いません」。少女時代には自分の師であり、神様のように憧れていたファンタジー作家は、現実の中で、生活力のないただの甘ったれた女性になっていた。

そのことに動揺しながらも、なんとか社会人として再生させようと正面から向き合う由梨江と、「私に合った仕事はない」と自分の小説を書き続けようとする作家。二人の葛藤と、現実の厳しさ、悲しさにぐんぐんと引きこまれていった。この二人の物語は、この小説の中だけのことではない。

世の中には認められない苦しさ、諦めないといけない現実、受け入れなければならないことがどんなにあふれていることか。それを受け入れるのが、大人になるということ。社会人としての責任なのだ。

物語は、作家がラドン温泉の脱衣場係として働き始めるという切ないラストで終わるのだが、物悲しさだけでは終わらない。由梨江は、作家が現実の社会と向き合った後、ひとまわり大きくなってまた何か作品を生み出してくれるのではないかと、希望を持つことにする。

人は皆、そうやって先の人生について希望的観測をすることで、今の現実を生きていくのだ。

(40代女性)

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