読書感想文「鬼平犯科帳(池波正太郎)」

最近読み返して、「やっぱり面白い」と唸ったのが、かの名作「鬼平犯科帳」だ。江戸時代の「火付盗賊改方」、つまり犯罪を取り締まる機関のトップである、長谷川平蔵が主人公。彼は若い頃は義母に苛められ、グレて、相当なワルだった時期もある。だから人の裏表に目を向けるし、身分が低い人にも優しい。「清濁併せ持つ」のが、彼の良いところだと感じる。

 

普段は温厚で優しいオジサンだが、悪人どもを前にすると、情け容赦なく斬りまくるのも恐ろしいところだ。さばけた性格で、浪人のような格好で自ら街の見廻りもする。特に印象に残ったのが、五巻に収録されている「凶賊」という短編。浪人姿の平蔵が訪れたのが、「芋酒・加賀や」という居酒屋だ。実はこの店の主人の裏の顔は、フリーランスの盗賊。

 

 

 

もっとも、殺しや強姦はしない、良い部類の盗賊だが。この時代はテレビも新聞もないので、「鬼の平蔵」の名前は知れ渡っていても、市民はその顔を知らない。だからこうして盗賊と、それを取り締まる立場のトップが、そうと知らずに対面する時がある…なんとも奇妙で、面白い状況である。

 

SNSが発達した現代では、あり得ないなあと、なんだか可笑しくなってしまった。穏やかで品が良く、気さくな人柄で、金払いも良い。おまけに、隣に座った夜鷹の女にも偉ぶったりしない。「人間扱いしてくれて嬉しい」という女に、平蔵は「だって、人ではねえか」とサラリと返した。その様子を見た、店の主人(実は盗賊)は、いっぺんに「浪人さん」に好感を抱いてしまう。

 

まさかに、有名な鬼平だとは夢にも思わずに。なんとも可笑しく、それでいてジンとする展開だ。やがて主人の九平は、相手の正体を知り、彼の為にひと肌脱ぐことになる。立場を越えた交流というのは、良いモノである。更にこの巻には「鈍牛」という、冤罪事件を扱った話もある。知能は低いが純真な男を、手柄を立てたい密偵が、無理矢理犯人に仕立て上げてしまった。鬼平は違和感を感じて調べ始めるが、彼が気付かなかったらと、ゾッとした。現代にも通じるお話だ。

 

(30代女性)

 

 

 

 

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