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読書感想文「乳房(池波正太郎)」

「乳房」の読書感想文

池波正太郎先生の「鬼平犯科帳」が好きで、この本は鬼平世界と繋がっていると聞き手に取った。だが本作の主人公は、鬼の平蔵ではない。彼は狂言廻しのような、ささやかな役回り。主人公は、お松という十九歳の女性だ。彼女の半生は不遇で、母親は幼い頃に死亡。漁師の父親は酒乱で、父親が暴れたせいで、お松の左頬には切り傷がある。
 
父親亡き後は、男に捨てられ……。奉公先の商家でも、陰気なお松は人に好かれず、鬱々とした日々を過ごしていた。そんなある日、自分を捨てた男を偶然目撃したお松。「お前は、不作の生大根のような女だ」男に浴びせられた酷い言葉に、殺意を燃やすお松。衝動的に、彼を締め殺してしまった。そのまま逃げ出した彼女は、偶然出会った長太郎という中年男に救われた。 
 
飄々とした彼の裏の仕事は、「あほうがらす」。お金に困っている女性と男性の橋渡しをする、いわば売春斡旋人だ。だが長太郎は、「双方が幸せになれる斡旋しかしない」という、風変わりなあほうがらすだった……。長太郎を通じて老女のお兼やその夫、それに旦那の徳兵衛。思いがけない人々と出会い、京都へも行き、変わって行くお松。
 
しかし、心の中にはいつも「捕まったら死刑になる」という恐怖があった。だからこそ欲を持たず、人の役に立とうとする贖罪の気持ちがある。そんなお松に、周りは不思議に惹かれるモノを感じていく……。成り行き任せで流されながら、無欲で思慮深い女性になっていくお松。そんな彼女は、知らない場所で「鬼の平蔵」にマークされながらも、知らずにステップアップしていく。
 
そして思いがけず、薬種問屋の後添いにと望まれて……。驚くほど変わった彼女が、幼い息子と訪れた茶店で助けた女は、彼女が殺した男の知り合いだった。そこで聞かされた言葉に、顔を輝かせるお松。罪を犯しながらも懸命に生き、やがて幸せを手にしたお松。サクセスストーリーだが、「我欲を捨てる」大切さを考えさせられる。
 
(30代女性)

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