七十代半ばの、傍から見ると認知症が始まっていると思われてしまいそうな「桃子さん」の話だ。頭の中の様々な声と共に一人暮らしを送っているのだが、その声の持ち主は子供の頃から少し前までの桃子さん自身や、亡くなった夫である。声は基本的に東北弁で聞こえ、桃子さんの思考も原則東北弁でなされる。
桃子さんが語るように、「東北弁とは最古層のおらそのものである」からだ。そのため必然的に東北弁の記述が多く、そのほとんどは前後の脈絡やニュアンスで分かるものの、所々どうしても分からない部分があった。そこに歯がゆさを感じつつも、反面「分からない」こともまた、心地よく思うところもある。
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桃子さんには子どもが二人もいるのに、子どもたちとは疎遠だ。理由の一つは、桃子さんにある。桃子さんは自分が母の思い通りに操られてきたことが嫌だったのに、結果的には同じことを娘にしてきたのだ。「なんだってこうも似るもんだべ。伝染病のように」という桃子さんの嘆きには、世の母娘の圧倒的多数が同感することだろう。
また、「母さんはお兄ちゃんばかりをかわいがる」という桃子さんの娘の直美の不満には、男兄弟を持つ女の子の多くが頷くと思われる。なのに桃子さんは息子から距離を置かれ、そして直美自身が、実は娘より息子の方をかわいがっているという設定は非常にリアルで、ため息をついてしまった。何とも救いのない話が延々続くようだが、最後に救いが二つ待っている。
一つは直美の娘のさやかが、桃子さんのところに遊びに来てくれたことである。桃子さんとその祖母のような関係が、さやかと桃子さんの間にこれから築かれる予感を感じた。そしてもう一つは、直美を通して、さやかに東北弁が受け継がれていたことが判明することだ。これまた、桃子さんと直美さんの関係修復の予兆があると言えるだろう。
恐らく三十代までの私だったら、この小説を理解できないか、下手をしたら途中で放り出していたことだろう。今だって七十代の母ほどは、この小説の設定が身にしみてはいないだろうが、分かる部分はある。もし七十台になってもう一度読み直したら、どんな感想を持つのだろうか。
(40代女性)
河出書房新社
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