読書感想文「私たちが好きだったこと(宮本輝)」

大分以前に書かれた本だが、自分は全く違和感なく読み終える事ができた。そして、読み終える事が惜しいと思える小説だった。二十代後半、男が二人、女が二人が、ちょっとしたきっかけで一緒に暮らし始め、そこに、各々の過去の事情だったり、それぞれに抱える問題などを絡めて物語は進行していく。もちろん山場のような部分はあるが、あくまで淡々と。

 

この作者の小説は他にも何冊か読んでいて、好きな作家である。文章の上手さはもちろんだが、どんな小説を書いていようが、違和感なく、物語に入り込むことが出来る。読者を自分の世界に引き込む力が非常に強い作家だと感じる。もちろん、人によって好みは分かれるだろうが。特に、この本を書いた当時、登場人物たちよりも大分年齢は上だったはずだが、青春モノを描くのが上手いと思う。

 

 

まだ、成熟しきっておらず、迷い、悩み、苦しみ、そして喜ぶ若者たちを描くのが抜群に上手い。この本に登場する若者たちも、いろいろなことに悩み、迷い、時にはお互いに傷つけあうこともする。だけれども、この本の中には、ドロドロとしたものが全くない。客観的に見れば、ひどい裏切りをするものもいる。

 

だが、この作者に描かれると、その裏切りすらも、なにか美しいものであるかのように感じてしまう。他にも、浮気に、借金に、未成年同士の結婚、たくさんの醜いであろう事柄が出てくるが、それらすべてに、強烈な悪意が全く感じられなかったのである。

 

だから、決してハッピーエンドとは言えない終わり方をするこの物語だが、読み終えたあとには、爽やかさすら感じてしまった。こんな人間たちが自分の回りに居たならどんなに素晴らしいだろう。愛するとは何か。生きるとは何か。何のために、誰のために、誰と一緒に生きるのか。そんないろいろなことを考えさせられる物語である。

 

時代なのか、それとも自分がまだ幼いだけなのか。彼等、彼女等はとても大人に感じた。人は誰でも間違うもの。そのときにどう反応できるかが、その人間の成熟度を表すと思うのだが、彼等、彼女等は、あっさりと、許すという選択をする。自分たちが、いかに損を被ろうがである。

 

物語の中での事とはいえ、ああもあっさりと他人の過ちを許されてしまうと、登場人物たちよりも年上の身としては少し悔しくもある。そして、あのようにあれたらと思う。あのようにありたいと思った。

 

(30代男性)

 

 

 

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