「田園発 港行き自転車」の読書感想文
心が洗われる、いや、浄化された。本当に読んで良かったと思えた小説だ。特別大きな事件が起こったり、揉め事があったりすることなく、普通の人たちが丁寧に日々を過ごすことで、富山に繋がっていく。
とにかく登場人物の一人一人の人間性の高さ、品性の良さに触れていることで、読んでいる自分も良い人間性を備えた人間のような気になってしまう。
衝撃的な場面があった。千春という女性が、母親とぎくしゃくして別居した兄夫婦と、もう一度やり直して一緒に暮らそうと伝えに行く場面だ。会った兄嫁の「あの子、不倫で出来た子よね」の言葉に、完全に違う生き方だ、このまま別々に暮らしていくほうがいいと見限った。
「あの子」とは、千春がずっと可愛く思い面倒を見てやっている佑樹のこと。みんなから愛され真っ直ぐ育っている佑樹のことを、あの一言で評した兄嫁がとてつもなく下品な人間に感じた。
でもちょっと考えてしまった。自分は今、この兄嫁を下品な人間と見下しているがこの人は実は普通の一般大衆と変わらないんじゃないか。小説を読んでいる自分は良い人間性を持っていると勘違いしているだけで、自分もこの兄嫁と同じようなレベルではないか。
品性の良い人間から見られた自分はその人たちと同じレベルに見てもらえてるのか、それとも下品な人間だと思われているのか。それを考えたら自信がなくてゾクッとした。そして心底思う。品の良い人間になりたい。人間性の高い自分でありたい。
この小説では良い人ばかりが登場するがかと言って夢物語だとは思わない。こういう人たちはきっといる、と信じられる。ずっとこの小説を読んでいたかった。これから盛り上がるという所で終わっているから。
佑樹を軸にした人間関係がどう展開されていくのか。品性の良い人間ならとるであろう言動を想像して、自分なりの物語を楽しみにしよう。そして、想像だけで終わらせず、自分もその言動で毎日を丁寧に暮らしていこう。そこまでやってはじめて、浄化されるのかもしれない。
(40代女性)
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