「命の器」の読書感想文
まずタイトルの「命の器」に惹かれ気がつくと手にとっていた。私が18か19歳の大学受験で恐ろしいぐらいの孤独の中にいた時期だ。友達もいない、家族も信用できないと人と話をして笑う事をすっかり忘れていた頃、出会ったのが、この「命の器」。当時、タイトルを見た時すがる思いで手にした記憶がある。まさに、私の命が消え入りそうなそんな時だったからだ。
うつとも、分裂病とも診断を受け「死ぬ事ができたらどんなに楽だろう。」と死を意識して毎日を過ごしていた。その時このエッセイに出会い、正直すがっといて良かったと、いえそれどころか、私自身の考え方に大きく影響を与えた一冊だ。このエッセイ本をきっかけに宮本輝氏の作品をそれぞれ手にしていくこととなる。
彼の小説を読みあさったころには、私自身も受験大失敗ののち、ひきこもりになりその後働きに出て、結婚し子を産み、育児ノイローゼになりかけながら当時を振り返ると「何が苦しかったのか?」疑問すら湧いてくる。しかし、あの時手にした「命の器」は毎日死にたいと思っていた私が本当は生きようとした証なのかと思いかえす。
小説と違って、エッセイは作者が私だけに質問をしてきたり、笑わせてくれたりするように感じられるので先にも述べたように、友達のいない当時の私にとっては、人と会話をしているかのような、しかも、興味深い話を沢山してくれる友達ができたような喜びがあった。
何に感銘を受けたのかというと「生きてるだけでいいねん。かっこつけんでええんや。」ということ。すごく頑張らないと生きてる事さえも、否定されているかのようなそんな受験生時代。結局、自分のために勉強していたわけではなかった。
「命の器」とは、宮本輝氏の幼少の頃からの生い立ちになぞらえながら、彼の個性的な父親との関係、身体が弱く病弱で小学校もよく休んでいたご本人のいわば自伝のような感じで文章が進められ、その時感じた事や場合によっては考えが読みやすく書かれている。私がそうだったように誰かの命もこのエッセイ本によって掬われ受けとめられるよう願う。
(40代女性)
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