読書感想文「長流の畔: 流転の海 第八部(宮本輝)」

宮本輝氏の著作「長流の畔」は、氏が34歳の時から書き始めた大長編「流転の海シリーズ」の第八部であり、連載開始から35年目の2016年に刊行された。次巻第九部で最終回を迎えるこのシリーズの、最終回直前の大事件が本作には描かれている。流転の海シリーズは、松坂熊吾という、戦後50代で子供を持った一人の男性の、挫折と栄光の繰り返しを追っていく物語である。

 

松坂熊吾は、大変横柄で昔気質の頑固さがある男性なので、序盤はいい印象が持てずとっつきにくいが、商売を替え、病気と闘い、色々な人に出会い、別れ、先立たれというまさしく流転の海のような人生を追ううちに、どんどん松坂熊吾の人柄に惹かれてしまうのが不思議である。また、主人公熊吾だけではなく、妻の房江や息子の伸仁、熊吾の愛人やその他関わった人物、裏切り者を含めてさえ、その人生や考え方に感情移入してしまう魅力がある。

 

第八部の長流の畔では、うまくいっていた松坂熊吾が人生で何度目になるだろうか、またも自営の会社のお金を部下に横領され、愛人との関係を妻に知られ、挙句に持病は悪化し大怪我をする、という人生のツキもここまでかという災いに見舞われる。現代では理解されにくい、昔気質の頑固さを持つ松坂熊吾の「弱音」がしっかり描写されており、剛胆な態度の裏側にある弱さを知ることで、熊吾がこの苦難をどうやって乗り切り、今後生きていくのかという点にフォーカスしてしまう。

 

 

また、そんな熊吾を支える妻房江の身にも、一つの大きな転機が訪れる。かつては夫の暴力に悩まされた房江だが、それでも熊吾に添い遂げ、自分がどうあれば夫と対等に生きられるかということを模索し続ける姿がしなやかですがすがしい。第八部の特筆すべきは松坂家に襲い掛かる数々の厄介ごとや不幸を家族がどう乗り切るかという点に尽きるが、中でもひ弱で口ばかりが達者だった息子伸仁が、横暴な父と相対する立場になっていく様子がたくましい。

 

伸仁の存在が、父親が高齢な松坂家のひとつの明かりになっているようで、不幸な中でも希望を感じずにはいられない。流転の海シリーズは、一人の男性とその周囲の人々の人生を追っていくという構成になっていて、極端に感動させたがるエピソードや悲劇を題材にしたものではないが、自分とは無縁のタイプの男性の人生を疑似体験できるようで、今後の展開をひきつけてやまない不思議な魅力がある。最終話までじっくりこの物語を追っていくつもりだ。

 

(40代女性)

 

 

[amazonjs asin=”4103325186″ locale=”JP” title=”長流の畔: 流転の海 第八部”]

 

ブログをメールで購読

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

 

 

宮本輝作品の読書感想文はこちら

コメントを残す

シェアする