読書感想文「戦艦武蔵ノート(吉村昭)」

吉村昭氏の著作は緻密な取材に基づいた作品が多く、その著作の多くは近世の作品が多いにもかかわらず、読者はあたかもその時代にタイムスリップしたかのような読了感を感じる。氏の著作には異色の存在である「取材ノート」を作品化した本篇は氏の作品に共通する「日本人とは、どのような民族か。どのような歴史を選択したきたか。」という本質を突き詰めた一冊であると感じる。

 

氏がこの取材を行った当時はまだ、戦中派(1940年代)を生き抜いた人々から直接インタビューを行うことができ、史実とインタビューを重ね合わせることで出来上がる作品群の背景がうかがえる。これが近世になると当事者が極めて少なく、あるいは皆無であるため、作品はフィクションにならざるを得ないが、いわゆる「戦時もの」の本作品は当事者との接触を重ねることでノンフィクションとしての重みが増している。

 

 

 

したがって、この作品のカテゴリーを「取材ノート」にとどまらず「日本人論」に広げて読み直していく価値が生まれる。氏の素朴な問い「なぜ日本人はあのような戦争を行ったか?」という問いに対して、「本質として日本人は戦争に肯定的であった」と結論づけるくだりは、多くの日本人にとって違和感を感じるかもしれない。

 

しかし氏の冷徹な洞察力が記す文面は、近代戦争という総力戦において必要とされる力は日本人が自発的に行動しなければ成し得ない、と結論付ける。その象徴としての「戦艦武蔵」を題材に選んでいる。21世紀の日本人に改めて読んでもらいたい。氏の問うた「日本人は戦争を本気でやることのできる民族である」という問いかけを。

 

最初に「取材ノート」、次に「日本人論」と記したが、声高にこそ叫ばない「戦争否定論」とであることに気付く。思い起こせば、日本人が「エコノミックアニマル」と揶揄されなくなって久しい。戦争に注いだ力を経済活動に注ぎ、世界中を席巻したわたしたち日本人は、次なる目標に何を捉えるのか。

 

2015年に「明治日本の産業革命遺産:製鉄・製鋼,造船,石炭産業」として世界遺産の文化遺産に登録された、三菱長崎造船所など、長崎を観光する方に一読していただくと長崎の別の見方をしていただける。

 

(50代男性)

 

 

 

 

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吉村 昭
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