読書感想文「獣の奏者(上橋菜穂子)」

児童文学のファンタジーとあなどってはいけない。ある特殊な血筋を引いた女性が、数奇な運命に流されて行きながら、自分の進みたい道を自ら選んで行く。壁にぶつかり、挫折し、悩み、女性としての幸せや、民族のタブーの間で揺れながら生きていく。これは大人が読むに十分に足る、むしろ大人に読んでほしい作品だ。

 

作品はごく日常の風景から始まり、登場人物が生きていく事そのものが描かれ、俯瞰の説明文はほとんどない。明日以降もまだその世界では登場人物たちが粛々と人生を送っていくように物語が終わっていく。読者は、その登場人物を生きることができるのだ。主人公エリンは決して世渡り上手ではない。

 

特殊な血筋をもった女性で、生まれながらに差別をうけがちであった。また、母系に伝わるタブーの存在を知り、タブーと知っていながら自分の信念を基にそれを犯していってしまう。快楽犯ではない。そうせざるを得ない運命の流れに押し流されるように、常にもがき苦しみながら、葛藤しているのだ。

 

 

この道が自分の、家族の、民族の、国の、その他全てにとって最良な選択であるのか、エリン自身、そして読者自身にも答えがでないところが、人生そのものである。大人に読んでほしい児童文学であると記したもう一つの点は、子供の存在が人生に及ぼす影響は、子供をもつ者でより共感するところがあるからだ。

 

主人公は、自分と夫が背負った忌まわしき宿命が、死後子供であるジェシにまで降りかかってしまうことを心配し、自分の死後の子供の自由を確立できるよう画策する。しかし、その子は親の背中を見て、親が歩んできた道を共に進もうとする。反発する親と子の心。子を思う親子心にまず共感する。

 

そして、最終的に全ての災いを昇華するのはジェシの英断であり、子の姿を見て、エリンは最後の決断をし、最後の災いを振り払う。親が子を育てるのだけではない。育った子に、教えられ、親が成長するという事も描かれている。本の対象通りに児童が読む場合、大人になった「かつての児童」が読む場合で違った感想を抱けるという点がこの本の最大のおすすめポイントだ。

 

(30代男性)

 

 

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