読書感想文「雪と珊瑚と(梨木香歩)」

生まれて間もない子供を一人で抱えながら、バイト先がなくなるのを機に、カフェの開店を決心する主人公。周りに協力してもらい、主人公も奮闘して、なんとか開店にこぎつけ、そのうち雑誌に紹介されるようになり、経営が軌道にのってきたころ、ある一通の手紙を受けとる。

 

かつてのバイト仲間で、馬の合わなかった相手からの手紙。話の流れからして、さぞいい手紙だろうと思いきや、見事に裏切られる。主人公もまた裏切られたような思いをするが、納得もする。私は、なんでと、すぐには受けいれられず、読み返してみてなんとなく分かったような気がした。

 

一人で働きながら子育てをする主人公は、ときに困惑したり落ちこんだりするが、自分の境遇を嘆いたり誰かに八つ当たりしたり、子供にいらついたり怒ったりすることがない。そのことを思い返すと、違和感があった。たぶん、主人公の本音が分からないからだ。

 

 

 

主人公の発言は、いつも慎重で相手の気分を害さないように配慮されたものだし、子供にひたすら献身的なのも、純粋に愛しいからと、いえない思いを抱えている。家族にも心を許せたことがないので、ましてや他人にわがままを言ったり、理不尽な感情をぶつけたりできないのだと思う。

 

代わりに「シングルマザー」で「子供のため」だからと、周りの協力を得て、自分の要求を通しているところがある。ありていに言えば、自分が言えないこと、できないことを、子供を使って実現するのだ。主人公には意図的にそうしている自覚はないとはいえ、親が子供をだしにして、そんなことをするはずがない、とは思えなくもない。

 

自分も子供のころ、親に利用された経験があるからだ。父方の両親、私にとっては祖父母に会いにいくときのことだった。表面的には父と祖父母は親しそうだったが、どうも父は実家には長居したくなかったらしい。そこで実家に行くまでの車中で、私に言ってきた。「お前の用事があるから、早く帰らせてもらうってことにしとくからな」と。

 

正直、自分も長居したくなかったので、そのときは素直に肯いたものを、後から考えてみてひどいことをされたなと思ったものだ。嘘を吐くのが心苦しいのは分かる。だからといって、子供に代わりに心苦しい思いをさせて、楽をしようとするなど、卑怯だし身勝手すぎる。

 

「ありがとう」と帰りに言ってくれたので、まだよかったものの、中には悪いことをしたと思わず、なんなら親として間違ったことは何一つしていないと、胸を張るような人もいるのかもしれない。理性的な主人公も、その罠に陥りそうになったくらいだ。私はまだ親になっていないが、なったとしても「子供が居るから」「子供がこうだから」と言い訳をしたくはないと、この作品を読んでつくづく思わされた。

 

(30代女性)

 

 

 

 

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