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読書感想文「膚(はだえ)の下(神林長平)」

テロの一団を護送中、飛行機の中でその一団の一人の少女が、軍人であり、一から人工的に作られた人間、アンドロイドに「だから寂しくないよ」と言う。はじめは、すぐに意味が掴めなかったが、こみあげてくるものがあって、アンドロイドのように泣きそうになってしまった。
 
アンドロイドは、人間が皆、火星に行ったあと、地球に残って住める状態にしておくのが任務だ。とりのこされるのは寂しいだろうと少女は思い、アンドロイドが習慣で書いている日記を自分が地球に戻ってきたら読むから、それで寂しくなくなるだろうと言ったのだ。後にアンドロイドは、このことを思いだして言う。あのとき、自分が寂しいと気づいた、と。そして、同時に寂しくもなくなったと。
 
私も、寂しいと思うことがあまりない。そう思っていたが、アンドロイドがそう言ったのを読んで、いつも寂しいからそれが当たり前になって、寂しいとも思わないのだと気づかされた。あらためて思いかえしてみれば、一人でいるときは寂しくはなかったと思う。人といるほうが寂しく思うことがあった。
 
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たとえば、人の中にいて、誰かの悪口を言っていたり、誰かを笑いものにしたり、人を怒鳴りつけたり、冷たくしたり無視したりするのを見たときだ。自分がされるのももちろん嫌だが、他の人がされているのを見ても、心臓が冷たくなるようだった。人と関係性をもつと、どれも起こりがちなことで、人としてしてはいけないことのように思うが、案外、陰口を叩いているときなど、皆は笑っていることが多い。
 
笑わずとも、相手に謝ることだってしないと思う。そんな様子を見ていると、人のことはどうでもいいんだと思えて寂しくなる。自分が同じことをされたら、辛いはずだ。相手も辛い思いをしていることが分からないのは、相手を同じ人間だと見なしていないからといっていい。
 
作中のアンドロイドも周りの人間に見下され、ないがしろにされる。人間ではないのだから、なにを言ってもやってもかまわないだろうと。そういった経験を経て、アンドロイドは人間が人間以外のものに排他的だと知り、また同じ人間同士でも相手を人間扱いしないことがあると知って絶望したのだと思う。
 
でも少女は違った。アンドロイドが、人間ではないと知って尚、地球にとりのこされるアンドロイドを思いやったのだ。アンドロイドが涙を流したのは、きっと日記を読んでくれることが嬉しかったのではない。人間同士でも思いやれないと思っていたその人間が、人間以外のものにも思いやれる可能性があることを知って、感動したのだと思う。
 
人を思いやる能力というのは、誰もが持てるものではないのだはないか。この本を読んで思わされた。逆に、自分さえよければいいと思うのが、人として当たり前なのかもしれない。そう考えたら余計に寂しくなったが、それでも私もアンドロイドのように少女のおかげで救われるような思いがした。あくまで物語のことだとはいえ、大丈夫、寂しくないよと言われた気がしたのだ。
 
(30代男性)
 
 
 
 

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神林 長平
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