読書感想文「約束(石田衣良)」

かけがえのないものを失くしても、いつか人生に帰るときがくる。もう一度、生きよう。主人公の土井汗多は、小学四年生。学校では目立つタイプではないが、心優しい男の子。親友の在原葉治はクラスの人気者。幼なじみの二人は互いをなくてはならない存在だと思っている。当たり前の日常が続くと思っていた、いつもの帰り道。正門前で突然、背の高い男がナイフを振りかざし、二人に襲いかかりカンタの目の前でヨウジが刺されてしまう。

 

しかも、ヨウジは自分をかばい刺されてしまったのだ。ヨウジが死んで、僕が生きている。どうして人気者のヨウジが死ななければならなくて、何もないザコキャラの僕が生きてしまっているのだろう。僕が死ねばよかったのに。自分よりも大切な存在であるヨウジを失くし、カンタは生きる意味をなくしてしまう。

 

 

 

この本に出会う前、私は大切な人との別れを経験した。自分の意図としないところで、大切な人を失う。今までいて隣にいてくれたはずの人が、突然今この瞬間からいなくなる。私は何を考え、誰に語りかけて生きていけばよいか、分からなくなった。そんな自分をカンタに重ねた。

 

「先生、大変です。カンタくんが砂を食べて…」何を食べても味がしない。熱湯を浴びても身体が熱さを感じない。顔で笑顔は造れるけれど、心は冷えきったままだった。ヨウジのいない世界は色もなくどこか淡々と過ぎ去っていく。このまま生きていて何の意味があるのだろうか。もう全て終わりにしよう。

 

まるで自分の心の中を描いているようであった。感情も色もない世界、私はこのまま生きていて、何か意味があるのだろうか。死ぬのではない。全て終わりにするのだ。
カンタはあの日と同じ服装で、嵐の中終わりにする場所を探しに行き、正門へとたどり着く。そうだ、ここで終わりにしよう。そう思ったとき、死んだはずのヨウジがあらわれる。

 

そして、ヨウジはカンタへこう言い放つ。冴えなくてもなんでもいい。たくさんのものを見て、経験して大人になって欲しい。心から誰かのことを思うとき、ふたりは繋がることができる。同じ景色を見ることができるんだよ。ふたりでいっしょにもっともっと生きよう。カンタには自分自身とぼくのために生きて欲しい。

 

読み進めていくたびに、自分の世界が明るくなっていくのが、わかった。ああ、こう考え生きれば良いのか。自分の中の、答えが見つかったような気がした。ぼくのために生きてくれるのも嬉しいけれど、まずは自分自身のために生きる。たくさんのものを見て、経験して大人になってゆく。それが生きるということなのだろう。

 

わかった、わかったから、ヨウジはもう泣かないで。かけがえのないものを失くしても、いつか人生に帰るときがくる。人生に帰るとき。人がもう一度前を向き、立ち上がる瞬間。その強さと美しさ。だから人は失うものがあった分、辛いことがあった分、強く優しくなれるのだろう。私にとって生きるということの意味を、この本は教えてくれた。そして、前を向くきっかけを与えてくれた。

 

(20代女性)

 

 

 

 

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