「美丘」の読書感想文①
美しい丘と書いて、ミオカ。美丘というタイトルを見ただけではこの本がどんなストーリーなのか、まったく想像できなかった。一体どんな内容なのだろう。どんな人物が出てくるのだろう。そんな期待に胸を膨らませながら本を開いた。峰岸美丘。それが彼女の名前だった。彼女は気が強く、思ったことを何でも口にし、明るく元気で天真爛漫な女性。私はそんな美丘がうらやましかった。なぜなら、私は美丘とは正反対の人間だから。
内気で周囲の目を気にして思ったことを口に出せない。これを言って嫌われたらどうしよう。そんな不安が頭をよぎり、結局いつも自分の意思を相手に伝えることができない。何でも思ったことを言えて、いつも周りに誰かが居てくれる美丘がうらやましく、そしてどうしようもなく彼女に憧れた。そんな彼女には、悩みや不安などないのだろうなと勝手に思っていた。しかし、そんな考えはすぐに消し去られていった。美丘と太一、正反対な二人が出会い、惹かれあい、愛し合っていったことによって。
ある日、美丘は太一に衝撃的なことを告げた。「クロイツフェルト=ヤコブ病。治療の方法はない。十年も二十年も潜伏して、いつ発症するかもわからない。それで、一度発症したら、三ヶ月くらいで脳がスポンジみたいに空っぽになって死んでしまう」美丘は、発症すれば決して治ることのない難病に侵されていた。美丘は自分があまり長く生きられないことを知っていた。だから、毎日笑って好きなことをして生きていた。
私だったらどうだろう。治療法も特効薬もない病に侵され、死と向き合って生きていく日々。自分の頭の中に恐ろしい病原体がうごめいているのだ。そんな状況で笑って生きていくことなんて到底できっこないだろうと思った。死の恐怖に耐えることなんて出来ないだろう。そう考えると、美丘はやっぱりすごいと思った。
そんな彼女に驚かされたエピソードがある。ある日、美丘の友達のちえみが「歳をとって、醜くなる前に死んだほうがいいや。しわくちゃのおばあちゃんになるなら、可愛いうちに死んだほうがいいや」と言ったのだ。確かにそうかもしれない。もし、私が病気だったら、ちえみの言葉に「わかるよー」とでも言うんだろうと思ったりもした。そのちえみの言葉に対して美丘は言った。「バカじゃないの。歳をとってぼろぼろになるの、かっこいいじゃない」と。
ああ、やっぱり美丘はすごいなと思った。美丘は命の限りを知っているからそう言えたんだと思う。最後の最後までおばあちゃんになるまで生きられないから、だからちえみの言葉は許せなかったんだと思う。美丘だって人間で、本当は弱くて不安になる事だってあるのだということに気づかされた。ある日、美丘が太一に言う。「いつか、私が私でなくなったら、太一君のこの手で終わりにしてほしい。私は自分が自分でなくなったのに、ただ体だけで生きているのは絶対に嫌」と。「約束してほしい」と。自分が誰なのかも忘れ、食事をすることも、そして息をすることも忘れて死んでいく。
それが、美丘の病気、ヤコブ病。やっぱり、美丘も人間なのだ。死が怖くないなんてことないのだ。いくら美丘が強かろうと、笑顔を見せようと、死は刻一刻と近づき、美丘は美丘でなくなる。自分が自分でなくなるのが怖くない人間なんて存在するのだろうか。そして美丘はだんだんと自分をなくしていく。その時がついに訪れ、太一は美丘に向かって「約束」と言う。点滴と酸素吸入のチューブに手を伸ばす。美丘の命の火は、愛する人の手によって消されたのだ。私の目からはとめどなく涙があふれた。
これほどまでに深い愛で包まれた物語を読んだことはない。美丘は私に教えてくれたのだ。命には限りがあることなんかじゃなく、一種の奇跡であること。これから私は変わろうと思う。今日、生きられたことに感謝しようと思う。明日が訪れることを願ってみようと思う。今まで伝えられなかった意思、それをこれからは伝えてみようと思う。美丘のように生きてみたいと思う。美しい丘と書いて、ミオカ。その名のとおり、彼女はそびえる丘のように悠々と、そして輝き美しい。そんな人間だった。
悲しく、残酷なエンディングではあるが、愛と命について深く考えさせられ、自分の生き方と向き合え、自分、時間、そういうものを大切にしようと思わせてくれた。
(30代女性)
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