「美しき愚かものたちのタブロー」の読書感想文
日本で本物の西洋美術を鑑賞できる場を作りたい、若者に本物の西洋美術に触れてほしい、そう願って持ち前の行動力、交渉力で自分の夢に向かって邁進した実業家・松方幸次郎。その松方の夢に共感し、実現すべく働いた男たち。彼らの夢はその後国立西洋美術館という形となって現実化した。
戦前から終戦直後にかけての暗い動乱の時代、当時の社会環境では何の役にも立たないと考えられていた美術のために人生をかけた男たちの生きざまは、読む者に生きる意味、運命、なぜ文化が必要なのか、など様々なことを問いかけ、そして勇気づける。
物語の中心である松方、そして松方に同行してフランスで絵画蒐集に尽力する美術史家の田代の熱力や行動力などは非常に魅力的で憧れをもつが、一番心惹かれたのは物語後半で詳しく描かれている日置釭三郎である。彼はもともとは飛行機乗りで、松方の本業である飛行機製造のためにフランスに赴任していた。
しかしその後松方により、社会情勢の悪化でフランスから持ち出すことができなくなった蒐集した絵画を極秘で守るという命を受けることになる。フランス人の妻以外そのことを知られてはならず、フランス、またはナチスなどからその絵画を守り抜く。その日々は非常に孤独で、また資金的にも大変厳しいものだった。
資金が底をつき、絵画を守るためにその一部を売却せざるを得なくなった時の葛藤、唯一共に戦い続ける戦友である妻の不幸、日本からの連絡もとぎれとぎれになる中でいつ終わるかもわからない任務を守り続ける日置の生涯には胸をうつ。やっと田代がフランスにいる日置を訪れた時、日置は食べるのもやっとという状況だった。
そして日置が守り抜いた絵画を受け取った田代が日置にかけた言葉は大変感動的である。この本を読むと、美術に対して興味がない者でも国立西洋美術館に行ってみたいと思うのではないだろうか。彼らが命をかけて守ろうとした絵画とはどんなものなのだろうか、それほどまでに価値のあるものなのだろうか、それは本物を見てみないとわからないだろう。
そして、田代が日置にかけた言葉、それは私達すべての日本人が日置に対して言わなければならない言葉なのではないかと思う。
(40代女性)
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