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読書感想文「サウスバウンド(奥田英朗)」

「サウスバウンド」の読書感想文

奥田英朗は、1999年「最悪」、2001年「邪魔」などのシリアスなミステリーを書いたと思えば、2004年にはコメディタッチの「空中ブランコ」で直木賞を受賞するなど、硬軟を自在に操ることができる作家である。本作は、直木賞受賞後第1作として出版された家族愛をテーマにした感動の長編小説で、2005年に単行本が発売された。
 
私の手元にある文庫本は2007年に上下巻に分けて発行されている。主人公:上原二郎は小学校6年生。父:一郎、母:さくら、姉:洋子、妹:桃子の5人家族である。「さくらと一郎」というネーミングは遊び心か。上原家はさくらが喫茶店を営んで生計を立てている。身長185cmの一郎は元過激派で、特に仕事をするでもなくいつも家にいる。
 
過去には数々の武勇伝があり、どうやら今でも組織とのつながりがあるらしい。常に作品の中心には一郎の存在があるのだが、文章は二郎の視点から書かれている。物語の前半(文庫本では上巻)は、東京・中野での二郎の生活を中心に、そして後半(下巻)は上原家が沖縄に移住、舞台を沖縄・西表島に移して、島に伝わる「アカハチ物語」を絡めて一郎が大暴れするという展開になっている。
 
前半の大きなエピソードは、二郎と中学生の札付きの不良:カツとのやりとり、さくらの実家との関わり、それと「アキラおじさん」である。中でもカツとの攻防は非常にスリリングであり、アキラおじさんのカツに対する行動はまさかの展開であった。奥田英朗が書くと「最悪」「邪魔」みたいにドロドロした風にもなるのであるが、ここでは札付きとはいっても中学生とのやりとりだから、読んでいてそこまで暗い気持ちにされることはなく、さらりと読み進めることができる。
 
ちょっと安心。そして後半は一郎が本領を発揮する。一郎が生まれ故郷の西表島の大自然の中で、そのキャラクターを存分に発揮して大騒動を起こすのである。ここでの相手は東京資本の大手デベロッパー「ケーディー開発」。一郎は自分の中にある腹の虫に従わないといられない性格なのだ。
 
「俺は楽園を求めている。ただそれだけだ」という一郎の極端ではあるが筋の通った考え方、振る舞いと西表島の大自然がとても生き生きと感動的に描かれている。とにかく一郎が魅力あふれる人物である。もちろん本当の家族にいるとちょっと困るのだろうけどね。
 
また、沖縄の歴史、西表島の歴史、それぞれを考え合わせながら、人が生きていくとはどういうことなのだろうか。人と人とのつながり、集団としての国、人と国との関わりは本来はどうあるべきなのか、なんてこともついつい考えさせられた。
 
(60代男性)

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