読書感想文「明日の食卓(椰月美智子)」

冒頭からいきなりショッキングだ。9歳の「ユウ」という子が、親らしき人間の手にかかって虐待死をとげる。次いで、犠牲者と同年齢・同名の息子をもつ3人の母親の日常が交互に語られる。一人っ子の「優」を育てる専業主婦のあすみ。在宅でフリーライターの仕事をしながら、「悠宇」と巧巳という男兄弟を育てる留美子。

 

そして一人息子の「勇」と暮らし、コンビニと工場の仕事をかけもちして生計を立てるシングルマザーの加奈だ。母親たちの境遇はそれぞれ違うが、いずれも現代日本の家庭として特殊というほどでもない。虐待につながるような要素はどこにも感じられない。

 

でも冒頭のシーンがある以上、このうちの誰かがやがて虐待死の犯人となるのだろうかという予想と不安を抱きつつ読み進んでいくことになる。ページを繰るにつれて、3人の主人公はそれぞれトラブルや問題に直面する。あすみは、優等生だと思っていた息子が実はいじめっ子だったことを知らされる。

 

同時期に、義母が認知症であることが明らかになる。留美子は、稼ぎは悪いくせに家事や育児に非協力な夫と、けんかばかりして仕事を邪魔する子どもたちにストレスをためる。加奈はなけなしの貯金を弟に盗まれ、息子に八つ当たりする。

 

信じていた我が子の思いがけない一面を見せられたショック、義母の認知症から目をそむける夫、仕事に集中したいのに集中させてくれない子どもたち、家計のやりくりの苦労、いろんなものが主人公たちを追いつめていく。ついには我が子に手を上げるところまで。よくわかる。

 

子どもを育て、在宅で仕事をし、認知症になった親の介護をした経験もある自分には、主人公たちのストレスも、夫や子どもを怒鳴りつけずにはいられないほどの怒りも手にとるようにわかる。衝動的に子どもに手を上げてしまうのも、賛成はできないとしても深く共感できる。著者の意図もまさにそこにあるのだろう。

 

我が子を虐待する親は決して異常人格でも特殊なケースでもないこと、日常のなかの小さなストレスやイライラが虐待につながる可能性があることを伝えるところにあるのだろう。日常から虐待へ。3人の女性がたどるプロセスの描写には、リアルな説得力がある。それでも心配になる。

 

家事も育児も介護も経験していない読者には、果たして伝わるだろうか? とくに男性読者は、主人公たちをただのヒステリックな女と片づけはしないだろうか? その答えは私にはわからない。わかるのは、自分にとっては胸苦しいほどに共感できる読書体験だったということだけだ。

 

(50代女性)

 

 

 

明日の食卓 (角川文庫)

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