読書感想文「熱帯(森見登美彦)」

森見登美彦の本は「夜行」くらいしか読んだことがない。「夜行」は世界観はものすごく好きだが、あらすじや結末は好みではない、という何とも微妙な印象で終わった小説だった。それ以来この著者の本は敬遠していたのだが、雑誌に紹介されていたこの「熱帯」がどうしようもなく気になり、ハードカバーを手に取った。

 

この小説の冒頭には、著者の森見登美彦自身と思われる人物が登場する。森見は昔京都で「熱帯」という本を見つけるが、最後まで読むことはできなかった。だが最後まで読めなかったのは森見だけではない。この世に「熱帯」を最後まで読んだ人間はいないのだ。そして「熱帯」という本に魅了され、その謎を解き明かしたいと願う人々が集う。

 

 

 

そこから予想も想像もできない「熱帯」をめぐる冒険が始まる。ストーリーは、謎に満ちた小説「熱帯」と「千一夜物語」にまつわる摩訶不思議な世界の中で展開していく。ある人物が語る物語の中で、別の人物がまた物語を語り始め、さらにその物語の中でまた別の人物が…と、物語は複雑な入れ子構造になっている。

 

読み進めるうちに、今誰の話を聞いているのか、これは現実の話なのか、あるいは空想の話なのか、一体自分がどこにいるのかわからない感覚になる。だがその迷宮的な世界と不安な感覚になぜかハマってしまう。「なんなんだこの本は」と思うと同時に、「こんなに面白い小説は久しぶりだ」と感嘆した。

 

中盤からは舞台も内容も大きく変わり、海上の大冒険譚となる。結末は人によって賛否両論かもしれない。正直に言って、もう少し謎を明らかにしてもいいのではないかと思わなくもなかった。でもこの本を読んでいる間は物語を読む喜びにひたり、いつまでも読み続けたいと思っていた。あらすじや魅力を言葉で説明するのが、これほど難しい小説もないかもしれない。

 

もし興味を持つ人がいたとしたら最初の2章ほどを、読んでみてほしいと思う。そうすればおそらく「熱帯」に取り込まれ、「熱帯」の一部となり、終章まで読み進めざるを得なくなるだろう。私がそうだった。

 

(40代女性)

 

 

 

 

熱帯

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