読書感想文「猫鳴り(沼田まほかる)」

モンと名付けられた一匹の猫の生涯と、猫を取り巻く周囲の人々の心情や出来事をそれぞれの視点から描いた物語。流産した夫婦が子猫を飼うことになるシーンから始まるのだが、私自身も何度追い払っても家に入ろうとする猫を根負けして飼っているので共感するものがあった。作品を通して目立つのは、憎しみや怒りなど登場人物の激しい感情の描写だ。

 

しかし物語を読み進めていくうちに、登場人物をそこまでの感情に追い込んだ要因が明らかになっていく。例えばモンを飼うことになった女性が、赤ちゃんと母親とのやりとりを憎悪の目で見るシーン、何度捨てても戻ってくる子猫を度々捨てに行くシーン。一見するとなぜこんなに酷いことをするのかと思えるのだが、その裏には流産の悲しみ、亡くした子どもを子猫の存在で埋めようとしてしまうかもしれない自分への恐怖や嫌悪感によるものだったことが分かる。

 

 

 

また、モンに会いに遊びにくる少女だが、手料理でもてなす飼い主の女性に「自分にはあなたより魅力的な母親がおり、あなたよりもっと美味しい料理を作ってくれる」という趣旨の発言をする。生意気でかわいくない子供だと思ったが、後に少女の母親が水商売をしておりご飯を作ってさえしてくれないので自分で買い物をし料理をしていることが分かる。

 

幼児に危害を加え続ける少年もそうだ。母子家庭で不登校になっているにも関わらず、無関心で執筆ばかり、会話もほとんどしてくれない父親。毎日黙って買ってきた惣菜をテーブルに置かれるだけのやりとり。彼にとって親からの愛情は喉から手が出るほど欲しかったに違いない。

 

少年がどんなに願っても手に入らない親からの愛情や関心を一途にたっぷりと注がれているのに、そのことに感謝もせず当たり前に受けている幼児。命がけで子育てをする皇帝ペンギンの雛に対する激しい憎しみの描写から、なぜ少年が幼児に危害を加えるのか察することができる。

 

私たち人間は目で見える人の言動にどうしても注意を向けがちだが、人にはいろいろな面があり、他者を傷つける言動には隠された辛い事情や悲しみがあるのかもしれないと思った。もう一つ印象的だったのは、モンが亡くなるまでの期間の飼い主と獣医とのやりとりだ。

 

ペットを飼う上で死は覚悟しなくてはならないものだが、苦しめてまで延命させようとする人間から見た「かわいそう」という感情と、死を受け入れる猫との対比が興味深い。死について「自然なこと」と表現した獣医の言葉から、すべて命あるものにいつかは訪れる死について考えさせられた。

 

読み終わる頃に涙が溢れたが、人の醜い感情の描写が物語を通して非常に多いのに、不思議と重い気持ちになることはなく、むしろ他者と接する上で目で見える言動だけで相手を判断しないよう、もっとポジティブな思考で人を見るようになりたいと思えた。

 

また、飼い猫との限られた時間をもっと大切にしようと思った。静かなストーリーだが、心にシンバルのように大きく響いた作品だった。

 

(30代女性)

 

 

 

 

 

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