読書感想文「蠅の王(ウィリアム・ゴールディング)」

イギリスの少年たちが無人島に不時着し、サバイバル生活を送る中で、人間の狂気に触れていく物語。そんなあらすじと、希望溢れる名作「十五少年漂流記」の殺伐版として親しまれているという定評を聞いて読んでみた。
 
元々、自分はサバイバルホラーやバトルロワイヤルもの、特にクローズドサークルものが好きで、世に出ているそういった作品の礎ともいえる作品がこれほど古い時代から、しかもかなりしっかりとした形で作られていたなんて驚きだった。主人公の健気で活発な少年ラーフと、合唱団の隊長だったジャック。二人とも他のみんなを観察して的確に命令することができ、リーダーシップに優れていた。
 

 
 
しかし、狼煙を上げてSOS信号を発し続けたいと願うラーフと、豚を狩って肉を食べることを一番とするジャックで次第に決裂していく。グループは2分割される。火を上げても一向に救助の兆しが見られず絶望していくラーフのグループ。狩りによって生死を賭ける緊張感を余儀なくされ、仲間に対しても恐喝や暴力さえ振るうようになるジャックのグループ。
 
豚を焼くにも火が必要だと気が付いたジャックたちは、敵陣であるラーフのもとへ夜襲をかける。ラーフの目の前に現れたのは、顔をお面のようにメイクして誰が誰だかわからない”ジャックたち”とおぼしき軍団と鋭利に研ぎ澄まされた木の槍。紳士であるべきはずのイギリス人少年たちが蛮人と化していた。
 
本当の恐怖は孤独や空腹などではなく、それらに晒されて常軌を逸脱しきった人間たちの心である。元々は気品あふれる少年たちが、文明を失くし、言葉を失い、獲物を狩って裸で叫び踊り、友達であったはずの者を殺し出す描写は信じがたいほどショッキングなものだっだ。誰を信じたらいいかわからない。
 
やがて自分の意志もなくばる、ただ流されるままに洗脳されてジャックを神格化する手下も現れる。誰しもが「生きたい」という願いは同じだった。しかし正しい判断ができる、絶大な信頼を置くことができる「大人」の不在が、願いの正反対へ作用する。本当に大事で全くもって単純なことを、少年たちは忘れてしまうのだ。
 
(30代女性)
 
 
 
 

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
ウィリアム ゴールディング William Golding
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