「有頂天家族 二代目の帰朝」の読書感想文
京都に暮らす狸・天狗・人間の物語。いろいろと面倒は起こるけれど、それなりに共存している三者である。「おもしろきことは良きことなり!」がモットーの狸、矢三郎を主人公に物語は進んでいく。おもしろいというだけで無用なトラブルを起こしていく阿呆で愛すべき狸である。
私は本作のファンであり、前作では悪名高き人間の集い金曜倶楽部による年末の「狸鍋」に向けて京都中の狸が戦々恐々としているのが印象的だった。この狸鍋に向けての盛り上がりが面白かった。
食べられちゃったらどうしよう、とぷるぷるしている狸たちがどこか滑稽で愛らしい。果たして今作の犠牲者は誰なのかとハラハラする。今作もやはりこの「狸鍋の会」に向けて物語は向かっていくが、様々な伏線が回収されていく。
矢三郎のお師匠である偉大であったはずの天狗赤玉先生だが、今では過去の栄光は見る影もない。相変わらず天真爛漫な美女・弁天(人間だけど天狗的)に夢中な赤玉先生は弁天を自分の跡継ぎにするつもりであったが、そこへ赤玉先生の本来の跡継ぎであった二代目がイギリスより100年ぶりに帰朝する。
この二代目の帰朝から物語は始まる。弁天と二代目による天狗の跡目争いが発端の空中戦もあり、狸同士のしょうもない喧嘩もあり、結構ドンパチもやるけれど何気ない日常の風景も良い。作中には、ふはふはした毛玉たちのほのぼのした日常がある。
こうした狸たちを見ていると、つまらないことでくよくよせずにもっと肩の力を抜いて柔らかく生きようと言う気持ちになってくる。この物語のでは京都を舞台としていることもあり私鉄阪急線の駅名などが出てくる。
特に私のように京都人ならばニヤリとすることが多いかもしれない。糺の森、歌舞伎座、出町柳商店街など、行ったことがある地名だと嬉しくて嗚呼京都に帰りたいなあと思う。京都の情景が頭に浮かび、京都の不思議な魅力を再確認できる。
この物語のように狸や天狗がいてもおかしくないような不思議な魅力の町、それが京都である。今は遠く離れてしまっているけれど、私の心の故郷とも言えるこの街の魅力がこの物語を通じてひしひしと伝わってくる。そして、京都だけでなく、まだ見ぬ日本の魅力ある地域を探す旅に出たい気持ちになった。
(30代女性)
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