「一九八四年」の読書感想文①
「一九八四年」は、「ディストピア」という言葉を知ったきっかけの本だ。人間が一つのパーツとして扱われ、自由にものを言うことも、いや考えることも許されないディストピア。不自由な事が多い世界の物語だが、果たしてそれが不幸だということに直結するのか、そう疑問を抱かせる。
幸せの定義は曖昧で、沢山の人が幸せだと確信していれば定義は反転してしまいかねない。本当に美味しいお酒の味を知らずにいる人が大多数で、出回っているのもまずいものしかなければそれが「美味しい」事になってしまうというような。だが、全く知らなければそれで構わないのだ。
本文中にも新世代の感じ方としてそのような描写も見られる。どれだけ冷酷な管理者が居ようが、大義が自分の意に反することを唱えようが構わない、自分が中で勝手に違っていれば良いのだと。しかし物語はここでは終わらない。もっと冷徹に自我の摩滅を目論んでくるのだ。
今の時代、ポジティブな事がかなり大げさに賛美されているように思う。常に前向きで楽観的な事がいかに素晴らしいか、どうすればそうなれるのかというハウツーで溢れかえっている。オーウェルの描く悲観主義が貫き通された世界を鏡で写して反転させたような感じだなと思う。
自分というものが完全に個ではなく、全体に吸収されてしまえば内なる反抗も無くなってしまう。そういうことは恐ろしい、嫌なことだと考える一方で、もしかしたら幸せなのかもしれないと読めば読むほど考えが強引に二つの極を行ったり来たりさせられる力のある小説である。いずれにせよ、今ここで生きているならいろんなことを知って自分で考えることが大切だ、この本を読むとそう実感せざるを得ない。
(30代女性)
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