「スペードの3」の読書感想文
正直に言うと、読んでいてただただつらかった。つらかったけれど、希望もあった。
人間の内面で起こるいろんな感情や、ちょっとしたずるさ、コンプレックス、自尊心、その自尊心を守るためのよすが、そういう細々とした心理描写がぐさりぐさりと胸を刺してきて、読んでどっと疲れてしまった。
明るい話でも面白い話でもないため、もう一度読みたいかというと悩んでしまうが、もっと歳を取ってから読んでみたら今とは違う味わいがあるように思う。
第一章の「スペードの3」は、タイトルの意味がわかったときの悲しみが深かった。描かれる美知代の心理は、わかりたくないけれどわかることも多い。
クラスで孤立しているむつ美をグループに誘うことで、自分の優しさをうんと感じていたり、自分だけが優れていることを味わっていたり、でも結局欲しいものは手に入れられなかったり、一つ一つのエピソードがとてもリアルだった。
第二章の「ハートの2」では、むつ美の抱える劣等感が息苦しい。特に、中学で自分と同じように見た目の冴えない友達を得た場面と、その友達がかつらを被る機会を与えられる場面が、嬉しさもあるはずなのに、つらかった。
他人からぶつけられる評価の中で生活していかないといけないなんて、生物である以上仕方ないのかもしれないが、勿体ないことだと思う。
この小説の中では、第三章の「ダイヤのエース」が一番良かった。つかさが、円の存在に翻弄され苦しむ姿には率直に好感を持った。自分が好きだと思ったからやる。
つかさはそんな単純な動機にすら苦しんで、円と自分を比較してしまう。小説を読みながら、つかさはそのままでいいんだよと、声をかけたくなった。
終盤、円が自分のずるさを謝るのも、つかさが、円は無自覚でなければならなかったと思うのも、わかる気がする。どれもこれも、大きな出来事ではないかもしれないが、少しずつつらくて、日常の気だるい苦しさそのものだと感じた。
(20代女性)
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