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読書感想文「営繕かるかや怪異譚(小野不由美)」

「営繕かるかや怪異譚」の読書感想文

私は、怖い話が大好きで、そして大嫌いである。矛盾していると思われる方は、遊園地の絶叫マシンを想像してみてほしい。乗りたくて長い行列に並んだのに、いざ乗り物が動きだすと、「嫌だ、もう降りたいよー」と思ったりしないだろうか?
 
怖い話を読むということは、その気分にとても似ていると思う。だからこそ、思ったより怖くないとホッとする反面、すごく損をしたような気分になるのだが…。小野不由美さんの書くホラーでは、「残穢」が有名であるが、あれは本当に怖くて、二度と読みたくない。しかし、また別のお話なら、読みたい。
 
そう思って手にとったこの本だが、結論からいうと、あまり怖くはなかった。全部で6つのお話からなる短編集で、すべて「営繕かるかや」という、建築家なのか大工なのか修理屋なのか、よくわからない商売をする男性・尾端が出てくる。 
 
正体不明の霊感がある若い男というと、キャラ萌えしそうなものだが、不思議とそこに魅力を感じなかった。作者も、それは狙っていないのだろう。彼の容姿について、ほとんど言及していないから。おかげで私は、ただひたすら、物語に惹きこまれることができた。
 
すべてのお話に共通しているのは、「家」に何か問題が起こる、ということ。叔母から受け継いだ古い屋敷の、開かずの間がひとりでに開く。旧家の屋根裏に、老いた母だけが聞こえる足音。潰した祠のそばの井戸から、漂ってくる海の臭い。
 
確かに不気味だが、すべてに救いがある。営繕の尾端が霊の身になって考える、ちょっとした「リフォーム」が、古い怨念を散らし、宥め、昇華させていくのだ。だから、救いのないホラーほどには怖くはない。そして、不思議なことに、「怖くない」のに、私は少しもがっかりしなかった。
 
6作のうち、最後の「檻の外」が、最も心に残る。シングルマザーが引っ越してきた借家のガレージに、昔、そこで亡くなった子供が「出る」のだが、子供の霊というのが、いちばん怖くて嫌なものではないだろうか。自分が子供を持ってから、特にそう感じるようになった。
 
幼くして亡くなった子供には、理屈も説得も利かない。助けてあげたくても難しいから怖いし、自分にも子があるから、身につまされて哀しいのだと思う。虐待されて死んだ子が、親を恨んで化けて出る。だったら、これは普通の「怖い話」だった。でも、そうではなかった。
 
子供は親の無関心によってガレージに閉じ込められ、排気ガスで死んだ。それでもなお、親を恨まない。苦しい思いをさせられたのに、親に対する慕わしさは消えない…。そう語る尾端の言葉に、胸が詰まった。
 
結局、尾端がガレージに施した、ある仕掛けによって、子供の霊は自由になり、出ていくことができた。恨みゆえに地縛霊になっていたのではなく、ただ、出ていこうにも出ていけなかっただけだったのだ。
 
それを怨霊ととらえてしまう現世の人間の方が、ずっと闇が深いように思う。読み終わってみると、子供の純な心に対する哀憐の思いが、胸に残った。ところで、この本にはもうひとつ、嬉しい仕掛けがあった。
 
装丁の、時代を感じさせる素朴な絵柄に見覚えがあるなと思い、あちこちめくってみたところ、コミック「蟲師」の作者である漫画家・漆原友紀さんの絵だとわかったのだ。あの「蟲師」の世界との繋がりも感じられて、ますます物語に情趣がわき、何度も読み返す一冊になった。
 
(60代女性)

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