「光の帝国―常野物語」の読書感想文
きっと私たちの周りにも、彼らは生きている。私たちと同じように。そう強く感じさせてくれる、暖かくもたくましい物語だ。きっと私たちの周りにも、彼らは生きている。私たちと同じように。そう強く感じさせてくれる、暖かくもたくましい物語だ。
この本は独立した10の章で構成されていて、不思議な能力を持つ常野一族たちが主人公。いつの時代も、この一族はひっそりと人間に紛れて暮らしている。その穏やかで柔らかい文体が、まるで常野の人たちそのものを表しているかのようである。とても読みやすく、一気に読破してしまった。
そして、ふとした折に「彼らに会いたいな」と思い、何度も読み返している作品だ。彼ら常野一族は、自分の能力を表に出すことはないけれど、社会に溶け込んでいる。その能力者と思えない普通の感情や人とのやりとりが、とても丁寧に描かれていて、すこぶる気持ちがいい。能力の差こそあれど、それはれっきとした人と人との触れ合いだからだ。
もちろん、時に激しい反発も訪れる。彼らにしか分からない敵と戦わなければならない描写や、能力があるこその苦悩に苛まれている様子は、読んでいてとても物悲しい。私は、表題にもなっている「光の帝国」を、涙を流さずに読むことができない。戦争下の日本で、常野の里は世間から隠れるように暮らしている。
戦争ですさんだり、能力に悩まされる子供達と、それを暖かくも厳しく見守るツル先生という老人。穏やかに見えるが刻々と暗いものが押し寄せていく状況が日常として書かれているのが、本当に心苦しい。そんな中、ある子供がつくったお祈りが、特に読者である私の胸を打つ。厳しい環境の中で、自分の能力や運命を呪いながらも懸命に生きて行くこと、そしてそれは誰であろうと同じだということ。
それを淡々とした易しい文章で書かれてある。能力があるからこそ自分たちは軍に狙われるが、それでも自分たちは生きて行く。そしてそれは、能力の有無や運命の凶悪さとは関係がないのだ。つまり、能力のない私たち普通の人間にとっても、生きて行くというのは当たり前であり大事だということ。里にいた子供達は結局、無残に死んでいってしまう。
けれどツル老人の元に、「先に行っている、時間がかかるけれど戻ってくるから、お祈りを忘れないで」と声が届く。子供達に再び会える時まで待ち続けるツル老人の姿は、柔らかくも固い信念に満ちている。矛盾しているようだが、どうしても私にはそう思えて、物悲しくもありまた心強くもある。この作品は、現代の日本を舞台にしている章でも、どこか「懐かしい」という感想がつきまとう。
古くから伝わる逸話や伝承の類を連想させるのだ。それは彼らの生き方が、生きるということを根本から見つめて対応しているように見えるからかもしれない。ただ死なないためにではなく、能力のある自分らしく生きるための旅。これを読んで、彼らとともに、私も生きていきたい。
(20代女性)
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