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読書感想文「チョコレートコスモス(恩田陸)」

読書感想文「チョコレートコスモス(恩田陸)」

「チョコレートコスモス」の読書感想文①

『チョコレートコスモス』、私にとって久しぶりの超長編小説となった。また久しぶりの恩田陸作品でもあった。それは文庫で500ページを超えるものを読んだことがあったけなと振り返った時に思うくらいに。書店で手にとった時はあまりの分厚さにうーん読み切れるかなと不安になったものの、読み始めると続きが気になってしょうがなくなる物語だった。
 
一気に読む時間をとる事ができなかったため、とぎれとぎれで読んでいたけれど、途中からは読めない時間がもどかしくなるくらい、読んでいる時間は次のページをずっと楽しみにしてしまっていた。他の作品も読んでいるが、やはりこの作家は物語の組み立て方が非常にうまいと思う。そして、そんなにも大量にあるページをものともしない勢いも読みながら常に感じていた。
 
気づけば次々と物語の中に引きずりこまれていく、現実の世界を忘れ、物語の世界がまるでリアルであるかのように。すべての登場人物たちが現実に存在していそうなくらい、性格や癖、風貌、バックグラウンドの作りこみ方もすごい、まるでその人物が映像で見えてきそうそんな描写が様々に存在している。
 
演劇が柱になっている物語、舞台の主役を巡ってなかなか巡り合う事のない少女二人の成長物語、一つの新劇場の杮落し講演を巡って様座な人たちの思惑が見えないまま進んでいく物語の展開、次から次へと読み手を引きずりこむ表現の仕方、細かな情景描写、物語の中で出てくる演劇の表現、登場人物がもっている気の毒になるくらいの感情の波の大きさ、時間が確実に進んでいることを感じる事ができる物語。
 
それらのどの要素をとってもこの物語を奥行きがあり深みのあるものにしていると感じざるを得ない。読んでいてまったく厭きることなく読み進めていくことができる。また、物語に登場する戯曲を読んでみたいと好奇心を駆り立てさせる組み込み方も、そして実際に舞台で演じているところを文字であるにも関わらず、まるで現実の舞台で見ているかのような表現も文字とは思えない迫力だ。
 
オーディションの場で演じる舞台上での緊張感、互いに張りつめた上手に隠そうとする嫉妬心、すべての登場人物たちが一つの舞台に向かってたくさんの感情を綯交ぜにして物語を進めていく。こんな風に物語を作る事ができる作家を私はあまり知らない。特に私の印象では女性の作家は内面の表現が緻密で、そして柔らかいと感じている。
 
でも、この作家は現実がしっかりと物語の中に根を下ろしていて、まるでその場を自分の目で見ているかのような気にさせてくれる。2017年に直木賞を受賞したけれど、こちらの作品も大層面白いと思う。恋愛でも、仕事でもなくて、演劇とという【みずもの】ともいえる要素を題材にして、出てくる登場人物の息遣いが伝わってくるくらいリアリティに満ちていて、感情がこちらにも流れ込んでくるようなそんな印象だった。
 
続きがあったようだが、それは残念ながら掲載されていた雑誌の休刊で目にする事ができなくなってしまったようで、それでもこの物語はこれだけで十分生きていると思う。そして機会があれば演劇も見てみたいと別の世界へ連れて行ってもくれる物語だとも思った。

(40代女性)

「チョコレートコスモス」の読書感想文②

恩田陸の長年のファンであり、その恩田陸があの「ガラスの仮面」から影響を受けて書きあげたという記事をネットで読んですぐにアマゾンで注文した。これはまさしく恩田陸版の「ガラスの仮面」だった。なかなか連載されない「ガラスの仮面」の芝居シーンへの欲求がかなり解消された。この本の中身はほぼ芝居シーンだ。
 
しかもオリジナルの。それも漫画のためのオリジナルの脚本を書き下ろすという美内すずえへのオマージュなのだろう。マヤにも劣らない天才の飛鳥がマヤのように客観性がなく自分に自信のないところも同じだ。飛鳥のほうが得体の知れない闇を感じる。芝居をしていて「楽しい」というのではないからだ。
 
何かを体得しようと黙々と芝居をしている。彼女からは感情がほとんど感じられないのだ。最後まで天才とはその才能の形に穴が空いていてそれを埋めようとしているものだといったことを村上龍が言っていたが、その通りだと思う。飛鳥は大学生の女子としては風変わり過ぎる。だから芝居の解釈が飛び抜けているのだろう。
 
オーディションの順番が必ず飛鳥が最後というのがよかった。アイドルから女優に脱皮したいあおいの芝居だって悪くはないのだ。野心が強くて負けず嫌い、これも女優のイメージ通り。その性格から演技が破綻していくのがリアルだった。演技に自分というものが反映されない飛鳥とは真逆の人物だ。
 
芸能一家に生まれたことによる育ちの良さやオーラ、型としての「演技」を受け継いできた響子もまた飛鳥とはまったく対照的に演技を構築している。飛鳥の「演技」はどこから来るものなのだろうか。芝居やドラマや映画をひたすら見続けてきたことによる記憶の整理からなのか。「面白い」「楽しい」という気持ちではなくただひたすら「演技」のみを見ていたのだろうか。
 
この本に出てくるの芝居は「見せ方」が重視されていた。オーディションが多かったせいだろう。そして飛鳥は風、死神、中年男性、伯母、映画「「欲望という名の電車」のブランチの影のブランチなど等身大の彼女からはほど遠い高いテクニックが必要なものばかり演じていた。この本を通して飛鳥がいかに天才少女なのかを証明され続けていた。
 
この先彼女が演技を「ダメだし」されて迷うところが見てみたい。難解な役ではなく「ガラスの仮面」の「ふたりの王女」のように年相応の可愛い役を演じてくれたらと思う。
 
(30代女性)

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