「王とサーカス」の読書感想文
主人公万智(まち)の葛藤が本当にリアルだった。ジャーナリストとして情報をつかんで伝えることは普通のことのはずなのに、なぜ・何のために伝えるのだろうかと考えてみると、ことばが見つからないのだ。
この本に出会って、そういう曖昧なものは世の中にとても多いように思った。例えば慣例として当たり前の喪中はがきの挨拶は、家族で亡くなった方がいるので年末年始のご挨拶を休ませていただきますね、という連絡のためにある。
年の瀬の恒例行事が年賀状作成であると言いながら、実際にはSNSの発達によりもう消えゆく運命にある気もしていて、それでも日本人として何となく行わなければいけない衝動に駆られたりもする。日本人として当たり前に行われてきたことも、考えてみたら何のためにあるのかわからなくなることがある。
何が大切で、何が自分の根底にあるのかという価値観は、自分がどの種族に属し、どこに住んでいたかによってだいたい決まってしまう。当たり前のこととして流されていたことは、まったく由来の違う土地では一切通用しないのだということを深く考えさせられた。それくらい、地球は狭いようでいて人間には十分広すぎると思う。
また、ミステリー小説であるという特性上、登場人物たち1人1人のキャラクターが濃いのがとてもおもしろかった。謎を解くために、1人1人の行動や心の動きが非常に重要になるが、物語の中に伏線がちりばめられていて、ミステリー好きには楽しすぎる展開だった。
物語の後半までまったく予想できない展開と、ジャーナリストとしてそして人として悩み、切迫していく主人公の気持ち…どうやって主人公の万智が犯人を見つけ出すのだろうかと最後までハラハラとした。
この小説では、綺麗な答えばかりではないということを教えてくれたし、それと同時にそれでも信念をもって生きていく、ということの大事さも伝えてくれた気がする。日ごろの悩みなどは、本当にスケールの小さなことなんだなと感じずにはいられなかった。
(20代女性)
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