「幸福な食卓」の読書感想文
この『幸福な食卓』というタイトルに惹かれ、晴れやかな気分になると思い読み始めたのだが、少し読んで晴れやかな気分になるような本ではなかった。しかし、家族であって家族でなく、最初は違和感を覚えた家族構成も読み進めるとなぜそうなってしまったのか理由が分かっていく。
家族だから見えることもあれば家族だから見えないこともあり、家族はなぜ家族なのかと考えさせられた。何よりも印象深かったのは、主人公のために頑張っていた恋人が事故で死んでしまうことである。誰かが死んでしまうような予兆もなく、幸せいっぱいで楽しいクリスマスになるとしか思えない雰囲気の中、彼女の支えだった恋人が突然いなくなるのだ。
彼と会う約束をしていた日の朝、新聞配達のアルバイトをしている彼が家の前を通り、頑張ってと声をかけたのが最後になってしまう。主人公にクリスマスプレゼントをあげるためにアルバイトをして、プレゼントをあげる日にあげることなくこの世を去ってしまう。
恋人の死からなかなか立ち直れずに落ち込み続ける主人公の元に、恋人の母親がプレゼントを届けに来る。プレゼントと一緒に入っていた手紙を読み、涙が止まらなくなる主人公と一緒に私の涙も止まらなかった。そして主人公は耐え切れず、以前死のうとして死ねなかった父親に向かって、死にたいと思ってる人が生きてて死にたくなかった人が死んでしまうと言ってしまうのだ。
我慢しようとしても出来ずに、生きていてくれてよかったと思ってる人に、それでも言葉にしてしまう主人公の気持ちが痛いほどに分かる。それに対して何も言えない父親の気持ちもとてもよく分かる。とても胸が張り裂けそうで切なくなった。それでも家族であるからまた笑い合うことができるのだと実感した。家族は何にも変えられない、唯一のものだと確信できるのだ。
主人公は恋人のために編んだマフラーを恋人の家に届けにいく。もう恋人の首に巻かれることはないマフラーだが、死んでしまった恋人が自分のために選んでくれたマフラーを受け取って、渡すはずのマフラーを渡さないわけにはいかないと決心したのだ。そのマフラーは恋人の弟の首に巻かれることになる。恋人のために作ったので少し大きいマフラーを巻いた弟が、主人公にありがとうと言う。私が弟の立場ならありがとうなんて言えないだろう。
この小説を読んで、家族は私にとって何なのか、どういう存在なのかを考えさせられた。晴れやかな気分にはならなかったが、なぜか胸がほっこりして暖かくなるような気分になった。
(20代女性)
すごい‼︎