読書感想文「十角館の殺人(綾辻行人)」

叙述トリック作品であると聞いてはいたものの、いわゆるどんでん返しにあたる一文を読んで本当に驚愕した。登場人物は日本人ばかりだが、お互いを海外の有名なミステリ作家の名前で呼び合っており、はじめのうちはなかなか名前を覚えられなくて大変だった。

 

しかし、十角館でお互いをカタカナの名前で呼び合う人物たちと、日常生活の中に身を置いてお互いを本名(漢字の名前)で呼び合う人物たちとが交互に登場することで、十角館という「非日常」と彼らの大学での友人が過ごす「日常」が対比され、徐々に緊迫していく「非日常」側の雰囲気が一層際立っていた。

 

 

 

私は以前にアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を読んだことがあり、この「十角館の殺人」は明らかにその作品を意識して書かれた作品である。外界との連絡手段を絶たれた孤島にある館の中で連続殺人が起こるという作品の構造そのものは同じであるのに、両作品のもつ雰囲気は明確に違っていて、著者の綾辻氏もそこを意識して書かれたのではないかと思われる。

 

「そして誰もいなくなった」はほとんど接点がなく初対面の老若男女が一通の手紙によって寄せ集められた集団であり、殺人が起こることで疑心暗鬼に陥る過程も自然なものだったが、「十角館の殺人」で館に集うのは大学のサークル仲間であり、気心のしれた友人たちの中に殺人鬼が潜んでいるかもしれないという、「そして誰もいなくなった」とは違った恐怖感がうまく演出されているように感じられた。

 

登場人物たちの抱く「サークルメンバーが殺人を犯すなんて信じたくないけれど、自分以外の誰かが殺人を犯したのは確かだし…」という、単なる疑心暗鬼とも違う葛藤がいろいろな形で表現されていて、「そして誰もいなくなった」よりも人間味にあふれている。

 

この手の作品では第一の事件が発生して登場人物たちが疑心暗鬼に陥る前段階で、あえて一同が和やかに歓談する様子を描いて雰囲気の落差を演出するのが常であるが、「十角館の殺人」では大学のサークル旅行という設定によってこの歓談がより和やかで楽しげなものになっており、それだけに殺人が発生してからの寒々しい雰囲気がより強調されている。

 

以前から交流があった者同士という設定のおかげで、ただお互いを疑い合うだけではない人間ドラマを描くことが可能になっており、それぞれの登場人物がとてもいきいきと描かれている。人間味あふれる登場人物たちに感情移入しながら読み進められるので、登場人物たちと一緒にハラハラしたり悲しんだりと臨場感を楽しむことができた。

 

(20代女性)

 

 

 

 

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