「湘南人肉医」の読書感想文
一言、カニバリズム嗜好のわたしには最高の作品である。とにかく主人公の残忍な殺害描写と人肉描写が鮮烈で異彩を放っている。美容整形の外科医をしている主人公の小鳥田は数多くの女性達を美しく変身させる凄腕の持ち主だ。しかし見た目は大太りでお世辞にも格好いいとは言えない。あまりの巨漢に、かつての恋人であり現在も親しい間柄の友人も痩せたら?
と引き笑い気味である。そんな小鳥田の殺人衝動は狂気という表現では言い表せないレベルだ。殺人はあくまで「食事」のための前戯であり、彼の目的は人肉なのだ。動物が狩りをするのと同じ感覚で、小鳥田は女性をターゲットにして殺人を繰り返す。殺しては損壊し、内臓は取り出した後に熱湯消毒を施して処理する。
バラバラにされた女性の遺体を小鳥田はセックス前の高揚にも近い感情に駆られながら調理していく。まるで高級なステーキ肉のようにフライパンで丁寧に焼くシーンは、一瞬この肉が人間であることを忘れさせるほど優雅で、一流シェフが料理している様を目の当たりにしているようだ。
野菜まで添えられて女性の人肉は立派なメインディッシュへと変貌を遂げ、ついに小鳥田の口に運ばれる。その瞬間、彼の体に強烈な快感が駆け巡る。食人行為によって、性行為では得られぬ激しい性的快感が彼に快楽と歓喜を与える。それはまさに悪魔の味であった。殺人に留まらず、人肉嗜食という悪魔の所業を成した者にしか分からない禁忌の味である。
義眼を埋め込み、口内には綿を詰めこんでメイクまで施した女性の生首を皿に乗せ、小鳥田は彼女を見つめながら人肉を食す。その様が不気味なほど事細かに描かれており、戦慄を覚える。小鳥田は一人を食べただけで満足するような男ではなく、美しい女性を次々と甘い言葉で誘い出しては夜な夜な殺人を繰り返す。
彼にとって食人行為は普通の食事と何ら違わないので、夕食の食材を買いに出かける感覚で女性を殺害する。もはやルーティーンと化した食人行為で狂気に満ちた日々を送る小鳥田だが、物語後半に登場する赤ん坊のスズランが彼に悍ましい願望をもたらす。飼育した赤ん坊が大きく成長したのちに殺害して食すという欲望は、カニバリズムに慣れ始めたわたしを良い意味で裏切るものだった。
とある女性から奪略した赤ん坊をスズランと名付けた小鳥田は、スズランを愛情たっぷりに育て始める。小鳥田の愛情を一身に受けて育ったスズランは次第に美しく成長していき、小鳥田と共に冷凍保存された女性の生首を見つめながら生活を共にする。不穏な空気で充満した異様な共同生活に思考力も麻痺してくる。
しかし突如涙するスズランに戸惑った小鳥田は、スズランを泣かせてしまったある女性の生首を投げ捨て、物語は衝撃のラストを迎える。まさかの結末は若干理解し難いが、逆に後味の悪さを残して終わるストーリーが癖になってしまい、何度も読み返してしまう。正直、5回以上読んだのだがいまいち小鳥田とスズランの関係性が理解できていない。
この「あえて理解させない」ように描かれた複雑な二人の関係が中毒性を生んでいる。二人の間には性的関係は全く無いのだが、それがかえって不気味で堪らない。極限の狂気と恐怖をここまで「体感」できる本は今だ他に見つかっていない。作者の意図のままに夢中になって読み、今では大石圭ワールドの虜である。
(30代女性)
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