読書感想文「デミアン(ヘルマン・ヘッセ)」

ヘルマン・ヘッセは何となく読まず嫌いをして漠然と避けてきた作家だったが、今回この『デミアン』を読んでみて、もっと早く読めばよかったと後悔した。善の側を象徴する「明るい世界」と悪の側を象徴する「暗い世界」の境界に立ち、揺れ動きながらも己の道を模索する主人公ジンクレエルには、大いに共感させられてしまった。作中には、「そして奇妙だったのは、このふたつの世界が、どんなに境を接しあっていたか、どんなにちかぢかと寄りそっていたか、である」とあるが、現実の世の中においても明るい世界と暗い世界は、一見対極に位置するようで、実はとても近いところにあると思う。そして時には、明るい世界よりも暗い世界の方が魅力的に見えたりする。特にごく若い時分には、自分自身の人生を振り返ってみても、暗い世界の持つ背徳的な魅力にやたらと惹きつけられる瞬間が多々あったように思う。

誰しも十代の自己形成期には、自分のあり方について、多少なりとも葛藤があると思う。その中で、柔弱に人々の中に入交り、何となく日々を消費していく人もあれば、たとえ孤独であっても、我が道を探求する人もいる。私はどちらかといえば後者に共感を覚える口だったが、それだけに物語中のジンクレエルの歩みには感じるところが多かった。物語の中盤以降を貫く、卵からむりに出ようとする鳥のイメージ。あるいは、神でもあり同時に悪魔でもあるギリシアの神アブラクサスが象徴するもの。それは、幼少期にジンクレエルが出会い、その後の人生に多大な影響を及ぼした友人デミアンの言う「カインのしるし」でもある。私自身も、昔、この「カインのしるし」を額に帯びたような人間になりたいと思っていたことを思い出した。そして、悩み、考え、集団から離れたところで自己を探求するジンクレエルが追い求めたものには、切実さが感じられた。多分、本当の意味で生きようとした場合、人生というのはとても切実なものだと思う。この小説を読みながら、今の自分を顧みると、いつの間にか切実さを失くして何となく日々を浪費していることに気付き、情けないような気持ちになった。同時に、最後にデミアンがジンクレエルへ送った言葉には希望を感じた。こういう境地に至りたいものだと思った。先のことは分からないが、少なくとも今は、もう一度切実さをもって人生を送るようにしたい。この小説は、そんなことを考える契機を与えてくれた作品だった。

 

(30代女性)

 

 

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