読書感想文「タックスへイヴン Tax Haven(橘玲)」

本書はプライベートバンカーの不審死を皮切りに、脱サラした平凡な男・牧島が壮大な事件に待ちこまれていくサスペンス小説である。この小説の序盤ではこの牧島と、牧島の元同級生でいまは裏稼業で荒稼ぎしている古波藏というもう一人の男を軸に、それぞれのストーリーが進行していくが、シンガポールで起こったプライベートバンカーの殺人事件をきっかけに異なる世界を生きていた二人の人生が交錯する。また、高校時代に牧島があこがれていた紫帆という女性が上記の事件で殺された男の妻であるということが発覚し、問題はさらに複雑化していく。さらに、主人公らが事件について深く詮索していくごとに、捜査線上には海外銀行の大物や国内政治家などが浮かびあがり、話がどんどん壮大になっていき最後には予想していなかったような結末に行きつく。

基本的に読み進めていくごとに話が膨らんでいくため、途中でこの話を収束させることができるものかと疑問に思うところもあるが、最終的には作者の力量をもって納得のいく形で話を落としてくれるので読者としては難解な言葉にもめげずに最後まで読み進めたことが報われた気分にすらなる。また、作者の橘玲はこの小説のほかにも金や政治をテーマにした本を多く執筆されている方で、本書ももれなく”金”によって人生を狂わされた人々の物語となっている。物語といっても、作者が綿密に調査して裏どりした内容に基づいて書かれている小説であるため、無駄にストーリーが壮大なわりに内容が伴わないような巷の陳腐な小説とは異なり、読み終えたときにまるで上質な映画を一本読み終えたときと同じくらいには余韻には浸ることのできる仕上がりとなっている。作中に登場する脱税のテクニックであったり、金融に関する情報は下調べなしには絶対に書くことのできない内容であり、この小説は物語の奥深さを味わえる半面、自身の知らない知識や世界を知るための教養書としても活用することができるのではないか。

 

(20代男性)

 

 

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