とても長い間有力者として日本の権力の一端を担ってきた、万俵家と、その外向きの豪奢さ壮大さに反比例するかのような内心、内情の醜さを描き切った一作。いわゆる父と息子が対決する、内紛めいた様相を呈する小説は数あれど、ここまで父が息子に対して非妥協的かつ徹底的に冷酷な潰しぶりを展開する作品は極めて珍しい。
前編冒頭などの、一見何の波風も立たない、穏やかそのものの家族風景や、長男の鉄平の思い出の中に存在する、家族水入らずの数々の思い出などに非常に多くの分量を割いているが、だからこそ財閥のトップで、銀行のオーナー頭取でもある万俵 大介の、苛烈なほどの容赦のなさや、女性関係に関する乱脈ぶりが際立っているとも言える。
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また、醜聞の暴露、骨肉の争いのみならず、鉄平が指揮を取った鉄工所における社員たちの話し方や情景描写、仁義ないほどのせめぎ合い、徹底した競争を強いられている大介に率いられた銀行のハードな内情などが強烈な生々しさをもって活写されており、その部分だけを切り取っても経済小説として成り立つほど秀逸なものがあり、だからこそ、無心に、そして徹底的に自分たちの仕事を頑張っていく「現場」と、財閥の長である大介の乖離が極めて明確になっているとも言える。
本作が書かれたのは1970年代前半、まだオリンピックなどを経た高度経済成長と、終身雇用のシステムが十二分に生きている時代のことではあるが、その後かなりの時を経て、幾度にもわたってドラマ化されているところなどからも明白だが、本作の救いようもないほどの陰湿な激情の迸りは、時代を超えてもなお特筆されるべきものがあり、多くの世代に様々な感動を呼ぶに値するものがあると言える。
特に、大介の陰謀に激怒しつつも常に男気を持ち続ける鉄平の生き方には、共感した方も多かっただろう。
(30代男性)
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