読書感想文「細雪(谷崎潤一郎)」

四姉妹それぞれの人生観や性格、行動が見事にバラバラで、それでいてお互いを理解して時に助け合い時に心配のあまり相手の行動を制限してしまう様子が、自分の姉との関係のようでいて印象的だった。

 

近所から美人と評判の姉妹を自慢に思う一方、「私だって負けていない」と思ったり、そんな自慢の姉妹が嫁ぐ相手を釣り合わないと思い不満を感じたり。細雪を読んでからは前述のような複雑な感情を姉に対して抱いている自分に気づかされ、また、もしかして姉も同様なのでは、と思うようになった。

 

両親や恋人より一番近い存在で、誰よりもお互いを理解している関係が兄弟姉妹だと常々思っていたが、意外にもライバルとも呼べる、常に張り合っていたい関係かも知れない。ただ決して悪い印象ではなく、どちらかというと「私はいまこんなに幸せ」「私はこんなお得情報を知っているよ」レベルの張り合いなので、お互い素直に相手を『凄い』と感じれば褒めたり、『それは間違ってるんじゃない?』と思えば率直に意見を言い合ったりできる関係だ。

 

そんな関係を姉と築いてこれたことは幸せなのだな、という思いがこの作品を読み終えた後に感じた第一印象だった。思春期ならいざ知らず、20代後半、30代ともなると険悪な姉妹は私自身の周囲にはいない(と思っているだけだろうか)。年齢を重ねて昔ほど開けっぴろげにはしゃがず落ち着いた雰囲気の姉妹もいるが、皆姉妹を尊敬し、たまに悪口やグチを言うこともあるけれど、その裏には愛情を感じる。

 

細雪の四姉妹もちょうどこれくらいの年齢であり、姉妹同士で他の姉妹のグチを言うことはあるが、「憎い」「嫌いだ」という印象は受けない。細雪の中で取り上げられている話題でもあるけれど、結婚を機に姉と住居が離れてしまったことはとても寂しい。

 

ただ、細雪の描かれている時代より文明が進歩してくれたおかげで、姉といつもラインや電話でテレビ会議ができる。お互い家庭を持って独立したとは言え、やっぱり姉妹は他人とは一味違う関係。これからも支え合い、切磋琢磨できる関係でいたいと改めて感じた。

 

(20代男性)


 

 

 

 

「細雪」の舞台としても出て来る阪急神戸線で私も育ったので興味を持ち、読み始めたのがこの本との出会いだった。時代は違えど、四姉妹それぞれの婚活や結婚についての描写がとても面白く、上中下巻通して、のめりこむ様に一気に読めてしまった。特に三女の「雪子」に関しては、早く良い人と縁が繋がり、幸せになってほしい、と願う気持ちで読み進めていた。

 

細かな描写の部分も美しく、自分と馴染みの深い街の昭和初期の様子や文化が、人々の息づかいまで感じられる様で、タイムマシンに乗ってその時代を覗き見している様な不思議なぬくもりを感じてとても楽しめた。正直、読む前は少し堅苦しい小説なのかと思っていたのだが、全くそうではなく、古い映画を見る様な感覚だった。

 

姉妹同士の関係性も、ホームドラマの様で面白く感じられた。4人姉妹なんて楽しそうだな、と姉妹のいない自分には、憧れの世界を覗く様な面白さがあり、やっぱり姉妹って素敵だな、お姉さんか妹が居たらこんな感じなのかな、と読みながら色々想像できて楽しめたのだ。

 

一つだけ、読んでいてとても辛い部分があった。四女の妙子(こいさん)の結末であり、衝撃的だった。個人的に、これではあんまりだろうという、後味の悪さが残っている。衰退していってはいても、元は大阪の良家のお嬢さんであるのに、新開地という神戸の人間のイメージでは少し荒んだ場所等で男との縁を作り、子供を身ごもり、しかもその結果があんな事になるとは読んでいても非常に苦しかった。

 

感情移入して読んでしまっていた分、それまでの物語のささやかな美しさや温かさが、一気に冷たくなってしまった様な哀しみを覚えた。妙子も幸せになって欲しかった、せめて子供と一緒に明るい未来を感じられる様な終わり方になれば良かったのに、と今でも「細雪」を思い出す度に思う。なので、珍しくじっくりと味わいながら読めた小説であるのに、もう一度読もうとは決して思わない。

 

(30代女性)


 

 

 

先月の中旬に、谷崎潤一郎の細雪を読み返した。これは上・中・下巻と三冊に分けられて新潮社から発刊されているもので、かなりのページ数の物語である。にも関わらず、読み始めるとするすると目が文章を追っていく不思議な小説だ。谷崎の書く独特な関西の方言もあって、雰囲気がとても上品に感じられる。

 

お話は、大阪の船場を舞台に、そこに屋敷を構える四人姉妹の人生模様を綴っていく。女性は社会には出ず、若いうちに縁談(当時でいう見合い話)を決めて両親を安心させてやるのが親孝行の一つであるとされていた価値観の時代に、四人姉妹それぞれの恋愛を、その移り行く関係性の刻一刻まで丁寧に描写していく。

 

またこの四姉妹というのが、それぞれ個性的で非常に面白い。一番上の鶴子はもうすでに結婚していて、作中での動きはさほどない。長女とは、いつの時代もこうした落ち着きを持ち、兄弟姉妹をどこか俯瞰した目で、且つ第二の母のような目で見守っているのだと、暗に示されているような場面が多々見受けられる。

 

次女の幸子は相当な世話焼き者である。三女の引っ込み事案な雪子のために、頼まれもしない仲人を積極的に買って出たりなどする。雪子も雪子で、引っ込み思案が過ぎる場面がある。周囲とは常に心情に温度差があり、何か大事が起きても自分ばかりはどこ吹く風といった気でいる。四女の妙子は、四人姉妹の中で最もエネルギッシュな子だ。

 

明朗快活で自由奔放な彼女は、姉妹達からもある意味で羨まれたりするが、その性格から、恋愛でのごたごたが絶えず、一番世話のかかる娘として、お話の冒頭からも読んで伺えるほどである。以上の四人の姉妹たちが主人公なのだが、細雪という小説の中では、主に三女の雪子と、四女の妙子が、どのように伴侶を決めるまでに至るかが描かれている。

 

結局、雪子は三十五で縁談をまとめる。当時としては結構周囲の目が痛かったものだろう。しかし、雪子は四姉妹の中でも特に美人で、若いうちは縁談をいくつ断ろうが後が続くのである。妙子は妙子で、世話の焼ける恋愛を繰り返していたが、ある災害を気に、自分の伴侶を心に決める。

 

こうして描かれていく彼女達の上流社会に、読み手自身も同時に落とし込まれていくようで、しばらく読んでいても飽きないので不思議である。読んでいると、性別や年齢、立場に関わらず、見る見るうちに雪子や妙子に、あるいは周囲の親族らに、感情移入してしまう小説だと思った。

 

(20代男性)

 

 

 

 

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