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読書感想文「ワンダーランド急行(荻原浩)」

「ワンダーランド急行」の読書感想文

日本経済新聞の夕刊で連載されていた小説。主人公の男性サラリーマンは、ひょんなことからいつも乗っている電車とは逆方向の車両に乗り、たどり着いた駅で異世界に迷い込む。どことなく今の自分に似ていて、すぐに物語に引き込まれた。

もしかしたら自分に起こっていた出来事かもしれない。異世界というのはパラレルワールドで、自分の元いた世界と似ているが、微妙に異なる。角の本屋が飲食店に変わっていたりする程度で、勘違いかと思うぐらいだ。

でもそこは紛れもない別世界で、元の世界とは少しだけ違った世界が広がっている。もしあのときああしていれば、こうしていれば違う未来が待っていたんじゃないか、そう思うことが何度もある。今の人生は、いろんな分かれ道で自分が選択してきた世界だ。

けれどそれはほんの少しの差で、今の妻とは違う人と結婚している人生があったかもしれない、全く異なる業種で働いていたかもしれない。どっちが幸せだったんだろうと、答えのない問いをずっと考えてしまう。

主人公は何度か元の世界に戻ろうとし、そしてまた別の世界に迷い込む。牛丼ではなくラム丼が流行しているような世界だ。そんな違いを気にしなければ、意外と快適に暮らせるのかもしれない。自分は別世界に行きたいのか、行く勇気があるのか、何度か自問自答する。

そのたびに思うのは、別世界だとやっぱり今の自分の子供と巡り合うことはないんだろうという、何とも切ない感情だ。いくら別世界で億万長者になったり、イケメンになったりするとしても、自分の子供に会えないのは寂しすぎる。

そう思うと、今の人生でよかったんだと、妙に自分を納得させてしまう。よくタイムマシンで行くなら過去と未来のどちらに行きたいかという質問がある。過去でも未来でもなく、パラレルワールドという選択肢があってもいい。

少しだけ違う世界、違う自分をのぞいて、また元の世界に戻ってこれるなら。この小説も、コロナ禍を題材に取り入れている。マスクをつけることが日常だったのに、異世界ではマスクをつけていない。

でもちょっと待ってと思ってしまう、それって少し前までは逆だったんじゃないかと。そしてまたマスクをつけない世界に戻りつつある。そうか、現実世界でもマスクをつけることが当たり前の異世界に迷い込むことがあるんだ。そう思うと少し気が楽になった。

今つらいことや悲しいことに直面しても、それはつかの間の異世界に過ぎない。やがて元に戻るんだと。コロナ禍で在宅勤務となった私は、この小説の冒頭のように電車に乗ることがなくなった。毎日乗っていた電車が、今は年に数回乗るだけになった。

これも異世界だ。けれど、満員電車に揺られて長い通勤時間をかけて出社する世界なんて考えたくないな。いつか異世界は終わる。それまでせいぜい楽しむことにしよう。

(40代男性)

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