読書感想文「一瞬の風になれ(佐藤多佳子)」

タイトル通り、爽やかな風が吹き抜けるような青春小説。序盤は少し読みづらいと感じたが、読み進めていくにつれて、高校生アスリート達のひたむきさや繊細な心の動きに引き込まれていった。主人公の新二は、思わず応援したくなるヒーローである。中学時代まで打ち込んだサッカーでこそ力を発揮できなかったが、高校で舞台を陸上に変えたところから、その才能が開花していく。

 

彼の魅力は、挫折の経験と天賦の「走る」才能、そして「努力する」才能を持ち合わせているところにあると思う。サッカーでは兄、陸上では親友の連と、誰もが羨む「天才」アスリートが周囲にいて葛藤しながらも、自分のやるべきこと、やりたいことを見出してコツコツと練習に励む姿は、自分もこうありたいと心を打つものがあった。

 

また、この「一瞬の風になれ」は、彼の高校陸上生活3年間をまるまる描いたストーリーになっている。迷いの消えない高校入学前から始まり、周囲を奮い立たせるようなキャプテンシーを発揮するリーダーになるまでの新二の成長を細やかに描いているため、思わず感情移入してしまう。

 

読後は彼と3年間苦楽を共にしてきた仲間のような、見守り応援し続けた親のような爽快感がある。魅力的なキャラクターは主人公だけに留まらない。親友の天才選手・連をはじめ、人間味溢れる監督、頼れる先輩、理解してくれる同期、手を焼くこともあるが可愛い後輩達、他校の強力なライバル…。

 

個性豊かな面々ではあるが、学生時代に部活動の経験がある人なら、必ず誰かに対して「いたいた、こういう奴」となると思う。規律に縛られながらも、どこか自由でわがままな、高校の部活動ならではの人間模様。春野台高校陸上部で起こる事件を通して、自分が高校生に戻ったような懐かしさを覚えた。

 

懐かしさといえばもうひとつ、試合の際の緊張感である。これもほとんどの人は学生時代にしか味わえない、独特のものではないかと思う。スタートする前のテントの様子、ライバルとの会話、レース中の思考など、臨場感たっぷりに描かれており、勝っても負けてもまさに手に汗握る展開が繰り広げられている。序盤の読みづらさは、主人公の語り口にあると思う。

 

若者らしい言葉づかいそのままに物語が進んでいくので、個人的には好みでなかったが、それも中盤からは等身大の息づかいが感じられて気にならなくなった。懐かしさとともに、体の中に新鮮な空気が注入されるような、みずみずしいストーリーだった。

 

(30代女性)

 

 

 

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