読書感想文「指の骨(高橋弘希)」

太平洋戦争中、南方の架空の島の野戦病院に収容された一等兵の主人公と戦友たちの様子を戦争体験のない作者が資料を元に書いたものだ。想像で書いたとは思えないほどのリアリティに圧倒され、引き込まれて一気に読んだ。亡くなった兵士の指の骨を遺族に形見のために取ることをこの小説で初めて知った。

 

連帯感が生まれるように同郷の同級生を同じ隊に所属させるということで、同級生の友達との戦場での交流の場面もある。学生時代に学問もスポーツも主人公が勝てなかった同級生に対する描写は、現代にも通ずる普遍的なテーマで、「こいつは特別なんだと言い聞かせることで自分を慰めた」

 

と主人公が学生時代の自分の気持ちを書いているところが、戦争をテーマにしている小説にもかかわらず心情的に一番心に残った。医薬品が底を尽きて、ただ脈をとることしかできなくなった軍医が自殺するところでも、病気や食料が尽きたわけではないのに、戦場でも自分の存在価値がなくなることに苦悩して自害したりすることに現代に通ずるものを感じた。

 

米兵の落とし物のチーズやコンビーフの缶詰を見て、「カリーの高いものばっかり食ってるな」というところでは、この時代の人が日常会話でカロリーなんて言ってただろうかと思ったりもした。途中から攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還していき、主人公や戦友たちは野戦病院を出なければならくなり、死を待つだけの虚無的な日々が綴られている。

 

自分は、ずっと生まれてきたことに喜びを感じることができず、生きることに虚無的だった。それはこの本を読んだ後も変わらないが、ただ食料がないという理由で生き続けることができなかった本当は生きたかった人たちの物語を読むことによって、食料という点で生きる心配はない今の自分の状況と照らして陳腐な言葉だが、やはりそれを「ありがたい」と思い、今の時代で生きるためにやらなければならないことに少しでも積極的に取り組まなければならないのかなと考えたりした。

 

(50代女性)

 

 

 

指の骨 (新潮文庫)

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