読書感想文「送り火(高橋弘希)」

芥川賞を受賞した作品ということで、書店に行く度、気にかけていた。手に取るきっかけとなったのは、帯に書かれた「少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――」という一文だった。『送り火』というタイトルからは想像できない、暴力の世界。非行少年の話なのか、何か事件に巻き込まれる話なのか、いくらか想像してから本を開いたのだが、出て来たのは中学生の何気ない学校生活だった。

 

都会から田舎へ引っ越してきた中学生が主人公だったので、初めは「都会っ子がイジメられる話なのだろう」と思い、読み進めていた。前半で感じたのは、描写の美しさだった。植物や景色といった自然を表現した文章はもちろんだが、主人公が見ている部屋の中、学校での教室の様子、人物の動きなど一つ一つが細かいと感じられた。

 

読んでいてその画が浮かんでくるのはもちろんだが、色が見え、音まで聞こえてくるようであった。表現の中には、普段聞きなれないような単語が出てきたり、難読漢字の単語が使われていたりと、初見では少々堅苦しい文章にも見えたが、そこが作品全体の雰囲気に繋がっているように感じられた。中学生の主人公目線で描かれる物語であるが、文章は中学生らしくは無い。

 

 

 

しかし、この主人公はどこか大人びていて、自分と集団との距離感を上手く掴んでいる。同級生への態度、教師への態度、そして両親への態度。それぞれどうすれば自分が害無く溶け込めるかを知っている。だからこそ、固い印象の文体が、この主人公目線には合っているように思えた。また、舞台となる青森県の方言も、物語の重要なキーとなる「田舎」をよく表している。

 

近所の老婆だけでなく、同級生の言葉も全て方言を使って書かれている。もちろん、カッコ書きでの翻訳や解説は一切無い。これによって、「すべての意味は分からないけれど、ニュアンスはわかる」という主人公の気持ちを読者にも植え付けることができるのだろうと感じた。物語は後半に進むにつれ、同級生たちが抱えているものや、過去、そして上級生との関わりが見えてくる。

 

「気づいた」その瞬間から、ラストに向かって物語がスピードを増していった。「僕は何もしてないのに、どうして」という主人公の問いには絶望感をぶつけられるようだった。そして、その問いに対する同級生の答えには、崖から蹴落とされるような苦しさを感じた。痛い、悲しい、苦しい、そんなマイナスの感情ばかりが渦巻く終盤は、当初思い描いていた展開とは全く異なるものだった。

 

「まさか、こんなことになるとは」と、読み終わった時にはただただ呆然としてしまったが、これも主人公と同じ気持ちなのだろうと思う。帯に書かれていた「暴力」は間違いではない。しかし、中学生らしい友情や悪ふざけのシーンもたくさんある。ただのバイオレンス作品ではないと感じた。綺麗ではないかもしれないが、友情作品と呼んでも良いのではないかと思える作品であった。

 

(20代女性)

 

 

 

 

送り火

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