読書感想文「月と六ペンス(サマセット・モーム)」

モームが若かりし頃に出会った画家ゴーギャンから着想を得て書いた小説とのことで、どうしてもゴーギャンの絵を頭に思い浮かべながら読んでしまう。どこまでが史実に基づいていてどこからが創作なのか。しかし小説である以上は題材のヒントをゴーギャンから得ただけであくまでストーリーは完全フィクションと取って読んでよいのだろう。

 

絵画に目覚めて正体不明の情熱により突き動かされるように全てを投げ出し絵を描くことに走ったストリックランドの奇行や言葉が面白かった。不意に十数年の絆を切り裂いて捨て去った妻子に対して「どうでもよい」「会いたくなどない」と言える潔さ。

 

 

 

自分に対する恋に狂い夫を裏切り頭のおかしくなった貞淑なブランチに対する「あいつが死んだらなんだというのだ」という冷徹さ。でも彼が嫌いにはなれない、この人を動かしているものの正体は何なんだろうかという謎に迫る主人公と同じ気持ちになりながらページをどんどん繰っていき、まるでキャンバスにかじりつくストリックランドと同じように一心不乱で本にかじりついた。

 

彼がその卑劣で冷酷で悪意に満ちた心で見ていたほど気高く清く美しい芸術は他になかったんだという主人公の告白にはこちらも頷かざるを得ない。この世には完全な悪人も完全な善人もいない。とんだ悪人が涙もこぼれるほどの善意を発揮したり、穏やかな善人が目を見張るような悪意をむき出しにしたり、拝金主義者が人助けが大好きだったり、滑稽なピエロが実に繊細な人格を携えていたり。

 

人間とはおよそ想像もつかないような矛盾を孕んでいる極めて複雑な生き物であり他者に理解を寄せるなどとんだ勘違いなのだということをまざまざと思い知らされた。自分を傷つけ他人も傷つけ最後は盲目になりながらも見えない目で描きたい世界を見続けたストリックランドが死ぬ直前に完成し(しかも焼き壊してしまった)壁画こそ彼の芸術世界を完全に表現できた美であることのはかなさと皮肉さに思わず苦い笑みがこぼれた。

 

(20代女性)

 

 

 

 

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