日本の医療の現実と、医療に限らず日本の事なかれ主義で保守的な社会風潮のもどかしさを感じさせる作品だ。死体に対する解剖率の低さゆえに、先端技術を取り入れた死因解明方法を取り入れたい。それにより、不明な死を少しでも減らしたい。普通に考えれば、なにも問題のない、より良い社会のためへの素晴らしいアイデアだろうが、現実はそうはいかないことをひしひしと感じさせられる。
決定のために、厚労省へ何度も医者や役人が集まり会議を重ねる。結局作中ではハッキリとした決着はつかない。予算だとか、立場だとか、様々な理由が複雑に絡み合い単純な意思決定すら膨大な時間と労力を要している様が伝わってくる。物語の構成上、当然といったらそうかもしれないが主人公たちのに相対する厚労省の役人や、解剖学会の面々には憤りを覚える。
どの人物たちも自分の保守や、過去の後ろめたい出来事の露見を防ぎたいがための行動に見えてしまいがちである。実社会でもそう遠くないやりとりが繰り返されてるのであろう。医療界に限らず、このようなのんびりとした会議が繰り返されていると思うと、なんとももどかしい気持ちになる。
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話を本の内容に戻すと、一転、主人公田口の旧友である彦根の作中での立ち回りはとても爽快なものがある。手段を選ばず、派手なパフォーマンスの裏にある強かな戦略は素直にかっこいいと感じる。また、シリーズ常連の破天荒役人、白鳥も今作では基本的に彦根の援護射撃をする立ち位置であった。
ベクトルの違う2人の常識はずれの言動は、現実感溢れる作風から少し浮いていて、それがとても心地よい。作中の大半が会議のシーンであるにもかかわらず、重苦しさや退屈さを感じずに読み進められるのは彼ら2人の存在が大きいと感じた。また、普段頼りない主人公田口が、白鳥と彦根に今作やシリーズで振り回されることで、次第と強かになっていく様も面白い。
田口くらいなら現実の会議にもいるのでは、と思う。一貫して、淡々とした現実味溢れる生産性のない会議の中、破天荒な2人と常識を外し切らない穏やかな1人が暴れまわる、読み応えのある作品だった。
(20代男性)
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