読書感想文「彼女は頭が悪いから(姫野カオルコ)」

この話は実際に起きた、東大生の強制わいせつ事件がもとになっている。登場人物たちの出身校も少し名前を変えているが、ほぼそこから推測されるものも多く、学校ごとのレヴェルによって、それぞれ悩みやコンプレックスを抱くところもリアルだ。加害者になる東大生の心理描写も面白いくらい誇張されており、自分達は日本で一番頭のいい大学に通う選ばれしものだ、というような描写が何度も出てくる。

 

それが滑稽を通り越して笑える。その選民思想が大きな波となって、周りの人間たちを巻き込みながら大きな事件へと繋がっていく。被害者の女子大生は、事件当時は報道が控えられており、現実とは違うかもしれないが、小説ではごく普通のまじめな女子大生であり、男女交際も初めてだという設定である。

 

 

 

そんな彼女が初めて好きになった人とデートして、関係をもって、幸せの絶頂を経験して、その後だんだん冷たくされて、それでも諦めきれなくて、あの夜を迎える描写は読んでいて胸が痛くなる。その交際相手の東大生の男やその周りの同じ学校の友達も、プライド高く嫌味たっぷりに書かれている。

 

面白いのが、そのグループに一人田舎から出てきた上京組がいて、結局その子の下宿先が事件の現場となるのだけど、東大生の中でも明らかに格差があり、それは学力だけではなく家柄や経済状況など、本人の努力では埋まらないものに左右されるところが垣間見えて、おもしろい。事件後女子大生が裁判で加害者たちに求めたものは意外なもので、加害者の親たちは何とか被害者にあって、示談しようとする。

 

そのわが子の行動をたいしたことではないと断じ、何とかコネを使ってでも収めようとするエゴむき出しの行動は見ていてものすごく不快だ。その時に、被害者の大学の学長が彼女に会いに来て、あなたは何も悪くない、と話しかける言葉は秀逸で、胸が熱くなった。彼女は頭が悪いから、というタイトルから連想されるのは、東大生の裏を見抜けなかった彼女は、あたまが悪いからなのか、最初はそう思った。

 

しかし恋愛が人の本質を見極めきれず、幻覚に酔ってしまう経験は誰にでもあることではないだろうか。作者はそんな思いを風刺にこめて表題にしたのかな、と思った。

 

(40代女性)

 

 

 

 

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから

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姫野 カオルコ
文藝春秋
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