読書感想文「薄情(絲山秋子)」

舞台は群馬でドライブシーンが出てくるといえば、まず思い浮かぶのは絲山作品である。作家のホームともいえる群馬を舞台に、地方と都市との関係、人と人の距離感をうまく描きだしている。文体は三人称でありながら、宇田川の心の中の描写が独り言のように間に挟まってくる、少し変わった文体となっている。

 

読み手は半分は客観的に半分は主人公になりきったような気持ちになりながら物語をたどることになる。主人公の率直な気持ちの描写が物語を引き締めているように感じる。そこがこの小説の強さとなっている。主人公は宇田川という神社の神主の跡継ぎで、神社の仕事がないときはキャベツ畑などのアルバイトをする。

 

 

 

あるとき同じ高校の後輩の蜂須賀と会う。そこから宇田川は様々な人々と交流しながら、やがて人々と離れていく。この小説は恋愛小説ではない。恋愛的な描写もあるが、それは一部分にすぎない。大きなテーマは人と人の間の距離というものがどのように変化するのかというものである。特に派手な事件が起こるわけではなく、地方の日常を描きながら、人々の交流が描かれる。

 

最初主人公は「変人工房」と呼ばれる芸術家が作業するアトリエで様々な人と交流する。だがあることがきっかけで(それは二度起こる)、宇田川はそこに行くことがなくなった(最終的には物理的に行くことが困難になる)。彼にとって工房が人と人をつなぐハブのようなものであったが、それが失われただけで、人との距離はかなり遠く離れていってしまう。

 

私たちの身近な例でいえばそれは、スマホであったりSNSであったりする。つまりそれらのおかげで人と人がつながることができるが、それが失われてしまえば、会う事さえ困難になってしまうのである。だがそれは悲しむべきことなのかどうか。たしかに失われてしまったが、そこに人と人との交流があったという事は事実なのである。そして主人公は出来事を過去として、新しい未来を探そうとしているに違いない。

 

(30代男性)

 

 

 

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