この本は、吉村達也著作のミステリー小説の代表作である朝比奈耕作の番外編のようなものである。主人公朝比奈耕作はミステリー作家なのだが、彼のもとに中学時代の同級生の女子から不可思議な手紙が送られてくる。その内容は整然とした中に、どこか精神の破綻を感じさせるもので、朝比奈耕作は不安を煽られる。
同時期、彼のもとに同中学の同窓会の案内が届いていことも、彼の不安を煽る大きな要因となっていた。手紙に記された北原白秋の「金魚」の詩。中学時代、ただ隣同士だったというだけの関係性しかない女性からの、突然の手紙。朝比奈耕作は会場に向かい、そこで学生時代の二大マドンナだった元美少女、現美女二人とともに、閉じ込められてしまう。
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そこから様々な罠のようなミステリーの世界が繰り広げられるのだが、この作品の面白いところは、随所で使用される北原白秋の詩になぞられた死体が徐々に現れることであり、学生時代の負の遺産が露になってくることであり、生死をかけたギリギリの精神の状態が美女二人に起こす精神の破綻の前兆を記す、著者の文章力である。
もちろん、主人公である朝比奈耕作の魅力も無視はできない。穏やかだが、内心に熱いものと、ほの暗いものを同時に秘め、理路整然とした知能と共に感情論を面に出す彼の人間的な魅力は無視できないだろう。
当作品は、都会のど真ん中で行われるミステリーサークル的な展開でもあり、少し手を伸ばせば誰かが助けにきてくれるんじゃないかと期待させる中、罠が仕掛けられているかもしれないという心理的な罠が仕掛けられているために、外部に助けを求められないところも、読んでいてドキドキしてしまう。
また、人間の生理現に注目しているのもこの作品の面白いところであ、殺人鬼が館内をうろついているかもしれない極限のなかで、登場人物が尿意を催してしまう辺りに、この作品に登場する人物たちを非常に人間くさくさせている。本当に、生きている人間が出てくるような錯覚を覚えさせてくれる。最初から最後まで非常に面白い作品なのだが、最後にすべてをひっくり返されるのも、ミステリー小説として清々しさを感じることができる作品である。
(30代女性)
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